秘書室室長がグイグイ迫ってきます!
お願いだから、忘れさせて。
つかまれた手を振りほどき部屋に駆け込むと、玄関で崩れ落ちるように座り込んだ。
「そんなに好きでいてくれたなら、どうして……」
奈津と寝たの?
一度の過ちくらいなんてとても言えない。
奈津は親友だったんだよ?
紳の存在を忘れようと、それから必死に引っ越しの準備を進めた。
「これ……」
キッチンを片付けていると、紳との思い出のマグカップが出てきて苦しくなる。
初めてのデートで一緒に買ったものだった。
「これは、捨てる」
持っていく荷物には入れず、捨てる方にそれを置く。
そんなことを繰り返しながら、伊吹さんとの未来だけを考えるように意識した。
それから二時間ほどした頃、外でなにやら言い争うような声がして窓からそっと覗くと、伊吹さんの姿が見えた。