アンドロイド♂との不思議な同居生活
 そして、それからしばらく経った、ある日の出勤日―
「おい、鈴木。ちょっといいか?」
また佐藤部長だ。今度は一体なんなんだ。
「はい、お呼びでしょうか」
「お前今、ちょっと大丈夫か?」
「えっ?あっ、はい。大丈夫、ですが」
「よし。じゃあ、お前今から社長室へ行け。社長がお呼びだ」
「しゃ、社長が!?私を、ですか!?なんでまた・・・」
「そんなことは知らん。いいから、さっさと行け!ぐずぐずするな!」
「は、はい!!」
なぜ社長が俺を?とうとうクビを切られてしまうのか?
俺の頭の中で色んな考えが渦のようにグルグルと回っていた。エレベーターで社長室のある最上階へと向かった。今の気分は切腹前の侍のような気分だ。自分の黒いスーツが白装束に見えて仕方がない。
社長室の前へと着き、深呼吸をしてから、威圧的な雰囲気さえ漂ってきそうな社長室の扉を震える手で3回ノックした。ノック音が妙に大きく聞こえた。
「しょ、商品企画課の鈴木です!」
「入りたまえ」
「し、失礼いたします!」
思わず声が上ずってしまった。恥ずかしい。
中へと入ると、いかにも"社長室"というような、高級感あふれる室内が俺の目の前に飛び込んできた。座り心地の良さそうな黒い本革の椅子には難しい顔をした社長が座っている。社長の机の前には黒いスーツを着た、見たことのない男性が立っている。高橋と同じくらいか、もしくは、それ以上のイケメンだ。スタイルも良い。
「忙しいところ呼び出したりしてすまないね」
「い、いえいえ!とんでもございません」
「今日、君を呼び出した理由なんだが―」
心臓が口から飛び出そうなくらいドキドキしているのが自分でも分かった。俺は固唾を飲んで、社長の言葉に耳を傾ける。
「君に頼みたい仕事があってね」
「へ?わ、私に、ですか?」
「あぁ、そうだ。君にだ」
予想外の社長の言葉に思わず気の抜けたような声が出てしまう。と同時に、少し安堵している自分もいた。とりあえず、首は切られずに済むようだ。
「君には彼の教育を頼みたくてね」
社長の視線の先には、さっきのイケメン男性が立っていた。
「ちょ、ちょっと待ってください!私の他にも優秀な人材はいくらでもいるはずです。なぜ、私なんでしょうか?」
「うむ。そのことなんだが・・・彼なんだがね。実は・・・人間ではないのだよ」
「・・・どういう、意味でしょうか?」
たしかに、同じ人間だとは思えないくらいイケメンではあるが、彼はどこからどう見ても普通の人間のように見える。社長の言葉の意味がまるで分からない。場を和まそうとしての冗談なのか?
「すでに一部では噂になっているようだが、君も聞いたことはないかね?」
「なんの、ことでしょうか?」
「"アンドロイド社員"の話だよ」
たしかに、高橋からそんな噂があるとは聞いていた。俺は"まさか"と思った。
「彼がね、そのアンドロイド社員なんだよ」
俺は本当に驚いた。どこからどう見ても普通の人間にしか見えない彼がアンドロイドだとは到底思えなかったからだ。
「信じられない、というような顔をしてるね」
「当然です。どこからどう見ても普通の人間にしか見えません」
「まぁ、それが普通の反応だな。私も最初見せられた時は信じられなかった。だが、これを見せられた時は信じざるを得なかったよ」
社長はそう言うと、おもむろに彼のスーツと、シャツを脱がした。彼の肉体美があらわとなった。彼は表情1つ変えない。身体つきは、かなり良い。腹筋も綺麗に6つに割れている。彫刻作品のような身体だ。社長は彼の背中が俺に見えるように、彼を動かした。
すると、彼の背中の中央より少し下くらいにスマートフォンぐらいの大きさのモニターと、その下にはわけのわからないボタンのようなものがいくつかあるのが見えた。モニターの横には黒いスイッチのようなものまである。俺は自分の目を疑った。
「な、なんなんですか!?これ」
「ここのモニターにバッテリー残量が表示される。下のボタンに関しては・・・あまりイジらない方がいい。私もまだ把握してないからな」
「こ、これ・・・本物、なんですか?」
「あぁ、本物だ。君は大学時代、ロボット研究会に所属していたらしいね?」
たしかに、俺は大学時代にロボット研究会に所属していた。でも、5年以上も前の話だ。今はロボットとは縁もゆかりもない生活を送っている。
「その君を見込んで、お願いしたいんだ。頼まれてくれるかね?」
「大変有り難いお話だとは思いますが―」
「もちろん、それ相応の見返りは約束しよう。頼まれてくれんかね?」
「5分ほど考えるお時間をいただけませんでしょうか?」
「あぁ、もちろん構わんよ」
俺はない頭で必死に考えた。アンドロイドの教育なんて俺にできるのか?でも、これは佐藤部長を見返すチャンスだ。もし、ここで上手くいって、社長からの信頼を得れば、あいつをギャフンと言わせることができる。それに、できる、できないじゃない。"やるか、やらないか"だ。
「答えは、出たかね?」
「・・・はい」
俺は少し間を置いた後、答えた。額に変な汗がにじみ出てくる。
「謹んで、お引き受けさせていただきます」
「おぉ!!そうか!やってくれるかね!いやぁ~!君ならやってくれると信じていたよ!ありがとう!本当にありがとう!!」
「い、いえいえ。そんな・・・」
「それと、1つだけ注意事項がある」
「注意事項、ですか?」
「うむ。彼がアンドロイドだ、ということは決して周りには知られてはいかん。無論、君の家族や、友人、恋人にも話してはならん。もし、彼がアンドロイドだと周りに知られたり、彼のことを話したりしたら―」
「したら・・・どうなるんですか?」
「君には責任をとってもらうことになるから、そのつもりでいなさい」
そういうことはもっと早く言ってほしかったぜ、社長。そう思ったところで後の祭りだった。
「彼は中途採用で入社した新入社員ということにするつもりだ。名前は"吉田 翔太"ということにする」
「かしこまりました」
「今はまだ電源を切ってあるから動かないが、電源をいれれば普通の人間のように喋るし、周りの音声を聞き取って、それを理解し、学習することもできる。動きも人間のように自然と歩くし、走ることもできる。無論、水に濡れても大丈夫だ。ちなみに、電源はモニターの横の、この黒いスイッチがそうだ。だから、君は普通に、他の新入社員を教育する時と同じように教育してくれればいい。ただし―」
「ただし?」
まだ何かあるのか。俺はだんだん不安になってきた。
「バッテリー切れには十分注意してくれ。バッテリーが切れると動かなくなるからな。充電は自動充電というやつらしい。まぁ要するに、充電はこっちが気にしなくても勝手にしてくれるってわけだ。ただし、充電中は彼はまったく何もできない状態となる。動くこともできん。つまり、バッテリーが切れそうになったら、人目のつかないようなところに避難させてほしい、ということだ。覚えといてくれたまえ」
なんともめんどくさいアンドロイドだ。これは厄介な仕事を引き受けてしまったものだ。俺は自分の浅はかさを恨んだ。
「入社日はいつ頃になりそうですか?」
「そうだな。入社前にメンテナンスも必要だって話だからな・・・来週の週明けから、という感じになるな。後、仕事が終わった後、アンドロイドをどうするか、なんだが・・・」
「はい」
「君は、ひとり暮らしかね?」
「はい。ひとり暮らし、ですが・・・」
「付き合ってるような人はいるのかね?」
「・・・いません」
「なら、よかった」
嫌な予感しかしなかった。社長、あなたは一体なにを言おうとしてるんだ。
「君の家にこのアンドロイドを、彼を置いてくれんかね?彼は食事を必要とせんからな。食費もかからんぞ」
そういう問題ではない。それにしても、嫌な予感ほどよく当たるというが本当だな、と、俺はこの時思った。
「・・・かしこまりました」
今更断ることなんて、俺にはできなかった。こうして俺とアンドロイドの不思議な同居生活が、今、幕を上げようとしていた―。
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