クラウディアへようこそ

「私達はもう慣れちゃったけどね!!“名無し”な上に、入社したてのゆうりんには不思議に見えるのかもねー」

とろとろの卵をスプーンですくいながら、雪菜は私の状況を的確に分析した。

前世のことを覚えていない人をこの会社では“名無し”と呼んでいるそうだ。

「まあ、私もふたにゃんも覚えているのはほんの一部だし。一色社長と賀来副社長みたいに何から何まで覚えている人の方が少ないよ?やっぱり特別だよねー」

一色社長と賀来副社長の名前が出てきて内心ドキリとする。

一般社員にとって一色社長と賀来副社長の国王&宰相コンビはカリスマ的存在らしい。

株式会社クラウディアを立ち上げ、世界中に散らばった同胞達を集め、一企業として立派に成長させた。

誰もがあの2人に惜しみない賛辞を送り、尊敬の念を抱いている。

(“名無し”で良かった……)

あの2人のようなカリスマ性の欠片もない私が“自分は元王妃だ”なんて言いだしたら、きっと暴動が起こるに違いない。

それに加えて、跪かれたり、ほっぺにキスをされたことがばれたらと思うと……女性社員に袋叩きにあってもおかしくない。

既婚者の副社長はともかく、独身の一色社長は会社内外問わず常に注目の的なのである。

「とにかく、あんまり深く考えすぎないほうが良いと思うよー。そのうち思い出すでしょ?」

「……うん」

(出来れば思い出したくないなあ……)

……一色社長の前では口が裂けても言えないけどね。

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