甘美なキョウダイ
扉を開けて運転座席に座っても、美優は何も喋りはしない。けれど悠斗を睨んでいる視線がびしびしと悠斗に刺さる。
それは車を走らせている間も、マンションに付いてからも変わらなかった。
いままであの家からマンションに帰るときはいっつも美優は悠斗にべったりとへばりついていたのに、今は悠斗の数歩先を無言で歩いている。
悠斗がエレベーターにカードキーを翳す音がやけに響いたエレベーター内で、悠斗は美優を見下ろす。最上階に付いて悠斗が部屋の鍵を開けるのも同じようなことで、悠斗は一つ息を吐いて扉を開けた。
「……美優」
靴を脱ぎ捨てて部屋に向かう美優の後を悠斗は追う。……困った、と悠斗は思った。
「美優」
「今日は私の部屋で寝る」
「……美優」
「……悠斗は来ないでよ」
美優の部屋の扉を閉めようとした美優の腕を悠斗は掴み、そのまま中に押し入った。
美優は気に食わないとばかりに悠斗を睨むだけ。そんな反抗的な悠斗のお姫様を、悠斗は薄い笑みを浮べて抱え上げる。「っ、」美優はから小さな悲鳴が零れたのも構わず、寝室のベッドとは比べ物にならない程小さなセミダブルのベッドに美優を寝かせる。
「どうして今日はそんな聞き分けが悪い子なの?」
暴れようとする美優の手を抑え込み、美優の上に跨った悠斗はその甘い顔で微笑む。
「悠斗のせいよ。私は旅行なんて行かない」
「俺と一緒でも?」
「…っ、あんな男と行くわけないじゃない!そもそも悠斗もそんな時間があるなら私ヨーロッパ行きたいってこの前言ったでしょ!?」
そんなにヨーロッパに行きたかったのかと悠斗ら思いながら、美優を諌めるように先程とは違い優しい手つきで美優の髪を撫でる。
「……分かった、ヨーロッパも夏休みに行こう。だから今日の件も行ってくれる?」
美優はまさか悠斗が了承すると思っていなかったのでグッと押し黙る。
……ヨーロッパは行きたい。それはそれは行きたい。美優の最近のマイブームはネットで中世の頃のお城を見ると言うロマンチックなものだからだ。
でも揺らぐ程旅行には行きたくない。絶対に行きたくない。何がなんでも行きたくない。
しかし悠斗は更に美優に追い打ちをかける。
「もちろんホテルの部屋は俺と美優との二人だけ。スウィートクラスの部屋を取ってもいいよ。それに一週間も俺は休みを取れないから実質5日ほどの旅行になるかな」
美優はしっかりと追い打ちを掛けられる。
「……それに美優がどっかから手に入れたあの薬も飲むけど?」
「えっ、ホント?」
思わず反応してしまった美優は直ぐに口を固く結んだが、これで悠斗の勝利は確定した。
「美優俺にあれだけ飲ませたがってたでしょう?いいの?主導権欲しくないの?」
悠斗は美優の耳元でそう囁けば、美優は伺うかのような表情で悠斗に顔を向けた。
「……飲むの?」
「仕方ないからね」
「……分かったわ。ヨーロッパ旅行に連れて行ってくれて飲むなら行く」
こうして悠斗が多大な抱合せを盛り込み、旅行行きが決定したのだ。
一気に機嫌が向上した我が妹を見ながら悠斗は思う。決して兄に媚薬を盛れると喜ぶ子ではなかった筈だと。
『美優』
『……アイ、何これ?…薬?』
『そう媚薬。ちゃんと合法的なやつで効果も一晩だけ。貰ったけどいらないからあげるよ』
『……あげるって。使えるわけないじゃない』
『そう?美優、喜んで悠斗さんに使うと思ったんだけど』
『……』
それでもそんな妹が可愛くて仕方ない悠斗は、ここまでする自分に驚きながら美優をその腕に抱き込むのだ。
「……で?何で何も変わらないの?」
「これ水かな、多分」
「っ、アイっ!!!」
「……でもまぁ飲んだことだし。異論は認めないよ」

