専務に仕事をさせるには
約束の10分前に恭子ママは現れた。
「瀬戸ちゃん、お待たせ?」
お店での恭子ママは着物姿だが今日は薄い藤色のワンピースを着て長い髪をおろしていた。
お店での印象とは全く違って綺麗と言うより可愛らしいと言ったほうがあう。
「ママ、別人みたい。凄く可愛いです」
「え?そう?」
私の言葉に恭子ママは頬を朱に染めた。
お店で見るママは色気があってとても綺麗だけど、どこか固い意志を持っている凛とした女性。
「私達みたいな商売をしているとね? 軽い女に見られてお金さえ出せばなんとかなるって思っている人も多いのよ?」
恭子ママはそんな男性を寄せ付けないように虚勢を張っているという。
「ママ、結婚はしないんですか?」
「んー結婚はしないかな? 勿論、パトロンも持たない。そりゃー寂しい時はあるし、誰かに抱きしめて欲しい時もあるけど、私には可愛い彼氏が居るからね?」と恭子ママはウインクをして笑う。
後ろ盾も無く銀座のママをやるって大変だろうけど、恭子ママには愛するものがあるから頑張れるんだよね?
じゃ行きましょうか? と、言う恭子ママについて行く。
「瀬戸ちゃん、その荷物何?」
私は大きな紙袋を2つ肩に提げていた。
「ええ… 皆さんにお渡ししたくて」
恭子ママは何かしら?と言っていたが私は皆さんの前でと言った。
レストランでは中奥に案内された。
既に皆さん揃っていた様で恭子ママは私を紹介してくれた。
「こちらがお話していた瀬戸さん」
「瀬戸鈴々です。今日は皆さんの大切なお時間を頂きまして有難うございます。お話を聞く前にこれをお渡ししたいのですが」
私は持って来た物をひとりひとりに包を手渡しした。
「久隆ちゃんと男女の関係があったか聞いてどうするの? 手切れ金でも払うって事かしら? 所謂これは口止め料て事かしら? 恭子ママからのお願いだから同席を承諾したけど、銀座の女を馬鹿にしないでくれる!?」
他のママからも包の中に小切手でも入ってるの?と囁く声が聞こえる。
彼女は憤然として私の渡した物をテーブルへ放り投げ席を立つ。
それを恭子ママが諌めた。
「津寄与ママ!!」
「お客様との男女の関係を話せって!? いくら恭子ママの頼みでもそれは出来ないことよ!? それが銀座のルールでしょ!?」
津寄与ママは怒りを恭子ママへと向けた。
「いえ、久隆と皆さんの男女の関係に興味は有りません。正確に言えば、皆さんがうちの久隆と男女の関係じゃない事は分かっています。 もし昔に男女の関係が有ったとしても今はもう無いでしょう? それに銀座のママともあろう人が他人に面白可笑しく口外したりしないでしょうから安心しています。」
津寄与ママは「え?」と拍子抜けした声を出した。