専務に仕事をさせるには
「いい加減出たらどうだ?」
鞄の中で鳴り続けている携帯電話。
勿論、相手が誰だが分かっている。
「良いの、気にしないで?」
駅まで走ったものの電車は止まっており、タクシーも捕まらなくて、渉に連絡したら近くに居ると聞いて迎えに来てもらったのだ。
渉の部屋でシャワーを浴び、洋服が乾く間渉の服を借りる。
渉に淹れて貰ったコーヒーの立ち上がる湯気を見ていると、冷めるぞ?と声が掛かる。
「覚めるかな?… いつか…」
いつか専務へのこの想いから覚めるかな?
この湯気のように消えてなくなるかな?
「お前何言ってるの? 冷めるに決まってるだろ? 変だぞ? 何かあったのかよ?」
別に何も無いよと私はコーヒーを啜る。
熱っ…
困ってる事が有るなら言えよ?相談に乗るからと言ってくれた。
昔から察しのいい渉は私に元気がないと飲みに誘ってくれて話を聞いてくれた。
でも、こればかりはね…
「ところで、専務の仕事はどうなってるの?」
「ああ、お前のところの副社長とララ・モーレの開発部長の宮本って男とは大学が一緒で互いにラグビー部で汗を流した仲らしい。その宮本は近々常務に昇進すると噂が有るらしいから、多分、一連の功績を認められてのことだろう? 二人は何度か同じクラブへ入るんだが、時間差で入るからふたり一緒に居るところを写真に取れないんだ」
「その店ってグレースって店?」
「ああ、そうだけど? なんで知ってるんだ?」
「私だって遊んでる訳じゃないのよ?」
私はグレースで働かせてもらう事になった事を渉に話した。
「そんなことして良いのかよ? お前のとこ副業禁止じゃないの? もう少し時間くれれば俺が証拠取るけど?」
「取り敢えず任せて? でもフォローしてね?」
渉は勿論フォローすると言ってくれた。
「ところでさ、明日、あんた暇?」