専務に仕事をさせるには

私はカツ丼の出前を取っていた。


応接テーブルにカツ丼の入った丼を置き、ポットに入れられた味噌汁をお椀に注ぐと味噌の良い香りがする。


「あっそれあの店のか?」


専務は味噌の香りで気が付いたようだ。


「はい。 おじちゃんに無理を言って配達してもらいました」


「そうか、有り難う」


専務は自席からソファーへ移ってくる。


「鶴見室長も冷めないうちにどうぞ!」


「私の分も?」


少し驚いている鶴見室長。


「勿論です!」と言うと「有難うございます。では頂きます」と言って鶴見室長はメガネを外す。


「あれ食事の時はメガネを外すんですか?」

と、聞く私に鶴見室長は


この眼鏡は伊達です。 ポーカーフェイスを作る道具、いわゆる私の鎧みたいなものです。 重役や秘書達が、私から社長や会長の情報を聞きたがります。話を誤魔化したり嘘をついても顔に出しては何もなりません。 だから会社では眼鏡という鎧を私は掛けています」


「えっ!? そんな事秘書になって間も無い私に話して良いんですか?」


「あなたは大丈夫でしょ? 要が好きになった人だから」


「えっ? 違いますよ!?」

私は顔の前で手を振る。

「専務は私の事など好きじゃないですよ! ただの… セフレ」


私は言葉尻が小さくなってしまった。


「はぁ!? 誰がセフレと言った!!??」

専務は少し強い口調で言う。


「直接言われてないですけど、そういう物ですよね? 愛人じゃ無い訳だし?」


「なんで愛人じゃ無かったらセフレになるんだ!? 俺は『俺の女になれ』と言ったろ!?」


「ええ、だから、私が『愛人になれという事ですか?』って聞いたら『俺は独身だから愛人とはちょっと違う』って言ったじゃないですか!?」


「ああ、言った! 愛人なんかにするつもりは無いからな!?」


「だったらセフレでしょ!?」


「だから、どうしてそうなるんだ!?」





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