専務に仕事をさせるには

秘書室に入ると鈴木さんがひとりパソコンに向かっていた。

伊藤さんと恩田さんは既に帰った様で、いつも机の上に置かれている伊藤さんのメイク道具や、いつも綺麗に内巻きに巻かれた髪型をチョックする恩田さんのミラーが片付いている。

彼女達はいつも仕事を選んでいる。選んで居るとは自分に特のない仕事には関わらないと言うこと。

だからプレゼンの行われる重役会議には顔は出さないから私は秘書課に配属されるまで、秘書は鶴見室長と木ノ下さんの顔しか知らなかった。

そして彼女達が定時に帰るのは彼女達のボスが18時以降の仕事を絶対にしないから。

時間外の仕事と言えば休日のゴルフに付き合うくらい。それも一緒に回る相手次第。

相手が若く有望株ならどんなに朝早い出発でも同行すると言う。

ましてや相手が取引先の御曹司ともなれば眼の色が変わるらしい。

これも木ノ下さんが去る時に私に教えてくれた事。

私はお疲れ様ですと言い自席のパソコンの電源を入れ社内の連絡メールの確認と鶴見室長に本日の勤務終了のメールをして電源を切る。

別に会社を出る際に出入り口で通す社員証で勤怠は分かるし、秘書はつくボスの仕事に合わせて動くので就業時間は合って無いものだから報告する必要は無い。

だからこれは私が勝手に送っている物。

腕時計を確認して席を立とうとしたところで鈴木さんに声を掛けられた。


「瀬戸さん、今日はもうお帰りになるの?」


「はい、人と会う予定が有るものですのですから」


「そう。 ところで専務は何をなさっているの?」


何をなさっている?…


怪訝な顔をした私を見て鈴木さんの目が一瞬泳いだが彼女も慣れたもので直ぐにいつものにこやかな顔に戻った。


「ほら! 専務って全然社にも顔出さなかったし、仕事をしない人って噂だったから? でも最近は毎日出社して来てるし何をされてるのかなって?」





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