憚りながら天使Lovers
デビルバスターの素質

 目を覚ますと、いつの間にか布団にうつぶせになって寝ておりハッとする。布団の中に恵留奈はおらず、キョロキョロ見回す。陽はとっくに昇っており、境内には朝日がさしている。
(恵留奈、どこに?)
 立ち上がって襖を開けると、縁のところに座る恵留奈を見つける。
「恵留奈」
「よう、玲奈。目は覚めたかい?」
「恵留奈こそ大丈夫?」
「うん、元気もりもり。ごめんね、昨日貧血かなんかで倒れたみたいで」
(えっ?)
「明ってヤツから昨日の経緯を聞いたんだよ。倒れた私を二人で担いでここまで連れてきてくれたって。ホントにご迷惑おかけしました」
 縁に正座して頭を下げる恵留奈を見て玲奈は慌てて抱き起こす。
「何言ってるの? 感謝するのはこっち……」
 詳しく話そうとした瞬間、明が割り込んでくる。
「八神さん、起きたばかりですまないけど、居間でオヤジが呼んでる。急ぎみたいなんで一緒に来てくれないか?」
 ふに落ちないものの、玲奈はしぶしぶ案内され居間に入る。居間には正座した実継が真面目な顔をしてこちらを見ている。
「おはようございます。昨晩はお世話になりました」
 丁寧にお辞儀すると正面に座るよう促される。明はここに残らないようで居間を後にする。
(このお父さんと二人っきりか。結構なプレッシャーだな……)
 緊張した面持ちで見ていると実継が口を開く。
「昨晩、いろいろお聞きしたいと申しておりましたが、まず私の方から忠告せねばならないことがあります」
「忠告?」
「早乙女さんのことですが、彼女は無意識の天使。普通の天使達とは一線を画するタイプの天使です」
「どういうことですか?」
「推測になりますが、八神さんは天使の生態等に少々お詳しいと、お見受けます」
(実際に会ってるし、エロい生態も十分に承知してます)
「彼等は悪魔を討伐するような者もおれば、啓示を授ける者、自然を守る者、智恵を授ける者、様々おります。愛を架け渡すキューピッドなどは有名でしょう」
(私や恵留奈のところにはキューピッド来ませんけどね)
「先程も言いましたが、早乙女さんはこの中でも特殊なタイプ。早乙女さんの身に危機が迫った場合にのみ顕在化する、言わば守護天使の部類になります」
「守護天使。守護霊みたいなものですね」
「はい、そう捉えてもらっても結構です。守護霊と違う点は、守っているのが自分自身というところでしょう。そして、天使として顕在化している間と前後の記憶は無い。ゆえに、混乱を避けるため、この事実は早乙女さん本人に告げない方が良いでしょう」
(確かに言う通りだ)
「分かりました。恵留奈には秘密にします」
「ご賢明です。それと次は八神さんご自身のことですが、愚息の話によると悪魔討伐者とお聞きしましたが、これは事実ですか?」
「事実なのかどうか、私には正直分かりません。偶然知り合った天使に、デビルバスターの素質があると言われただけなので」
「なるほど、しかしながらその出会った天使のおっしゃることに間違いはないようですね。私の見立てでも八神さんの霊圧は相当なものです。少々の悪霊では近づくことも出来ないでしょう」
(今までの心霊スポット巡りで、霊を見れなかった理由が解明されたわ……)
「ただ、それだけの力をお持ちだと、逆にその力を取り込もうとする悪魔も現れるかもしれません」
(優……)
 自然と亡くなった優を思い出し悲しくなる。その表情から実継は察する。
「既に悲しい目に遭われたようですね。心中お察しします。この際ですから、ご忠告申し上げますが、昨夜のような心霊スポットやその他悪魔に関連する場所や品々が奉られている店、そのような所は極力お避けになることをご進言させて頂きます。そのような場所には必ず悪魔が関わって参りますゆえ、八神さんが目を付けられる恐れがあります」
(室内の悪魔グッズは全て破棄したけど、心霊スポットもダメなんだ)
「分かりました。今後注意します」
「ご殊勝です。私からの進言は以上です。八神さんからお聞きしたいことがあれば、私の分かる範囲でお答えしますが、何かありますか?」
(なんかいろいろと新情報がありすぎて、昨夜聞こうとしたこと忘れてしまった。でも、一番聞きたいことはやっぱり……)
「具体的に悪魔を倒すにはどうすればいいんですか?」
 真剣に聞く玲奈を見て困った顔をする。
「先程お話したように、悪魔と関わるような場所に立ち入らなければ、そのような自体にもなりません。倒すという考えはお捨て下さい」
「大切な友達を守るときに必要なんです。それでもダメですか? 昨日みたいにいざってときに何も出来ないなんて、私絶対嫌なんです! お願いします!」
 必死に懇願する姿を見て実継は頷く。
「簡単ではありませんが、原則みたいなことをお話しておきます。聞いたからと言って必ず討魔出来るとは限りませんので、あくまで非常時に当たったときの心構え程度と思って下さい」
「分かりました。ありがとうございます」
「まず前提ですが、悪魔との戦いで重要なのは腕力でなく精神力。精神力を削る戦いだと認識して下さい。心の強い者が有利です。次に討伐方法ですが、光を当てることを意識して下さい。自分自身が太陽になったイメージを持ち、その光を悪魔にぶつけるイメージです」
(クリリンの太陽拳みたいな感じかしら?)
「本来、光をイメージし固定できれば数珠や刀剣といった物は必要ありませんが、光を宿し易くイメージが固定しやすいという理由から、各々が好む武器のような物を所持することもあります」
(そういえば、明君は数珠を使ってたし光ってた)
「昨夜、明君が数珠に光を込めていたのを見ましたが、それをぶつければいいんですね」
「そうなりますね。ただ気をつけて貰いたいのは、光の強さは個人差があり、その光量によっては全く効果のない相手もいるということです」
「明君でも全く手に負えない悪魔もいる、ってことですか?」
「ええ、たくさんいるでしょうね。ですから愚息には昨夜のような心霊スポットに行かないよう言っているんですが、人助けのつもりか一向に止める気配もなく困っていますよ」
 苦笑する実継に玲奈も笑顔になる。
「でも実際に明君のお陰で助かったので、私は感謝してます」
「そう言って頂けると愚息も喜ぶでしょう。話を戻しますが、もし八神さんが悪魔と戦い対峙するような時が来たときは、心の中に光をイメージして下さい。そして、その光で手の平全体を包むイメージをして下さい。八神さんの霊力ならその光の手で相手に触れるだけで討魔できると思います」
「そんなに簡単なんですか?」
「いえ、訓練が必要でしょうね。今言ったことは愚息でも出来ませんからね。出来ないから数珠で代わりをさせてるんですよ」
(なるほど、討伐アイテムは補助なのね)
「じゃあ、私も数珠があればいいんですね」
「単純にそうはならないんですよ。愚息の数珠は幼少の頃から持たせている、言わば身体の一部みたいな物。持ち慣れた身近な物でないと代用は不可です」
(つまりそれって)
「今の私には何も出来ないってことですよね?」
「残念ながらそうなります。これからの訓練次第としか申し上げられません」
(訓練か、勉強なら得意なんだけど、体育会系はちょっと苦手だな。でも、そうも言ってられないか)
「具体的な訓練方法を教えて下さい。私、強くなりたいんです!」
(優のときのような思いはもうたくさんだ。私が強くなって大事な人を守る!)
 決意のこもった熱い瞳を見て、実継は溜め息を一つついて頷いた。

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