呼吸(いき)するように愛してる
匠くん達のお父さんは、家政婦さんを派遣していた紹介所を通して抗議した。

お詫びに訪ねてきた紹介所の所長さんが話したのは……

その家政婦さんには、今まで一度も問題行動はなかった事。

何年か前に、その家政婦さんの三才の息子さんが事故で亡くなった。匠くん達を見て亡くなった息子さんを思い出し、つい行き過ぎた行動をとってしまった。

家政婦の仕事を辞め、自分の実家のある他県に引っ越す、というような事だった。

簡単には許せないが、要くんも匠くんも落ち着いていたので、匠くん達のお父さんはそれ以上、大事(おおごと)にしない事にした。

その事がきっかけで、朋美さんは他人に頼れなくなってしまった。朋美さんと、匠くん達を心配したお母さんは、「自分に任せてほしい」と言ったのだ。

それから、保育園のお迎えから、夕食、お風呂の世話を、お母さんがするようになった。卒園してからは、小学校から下校すると、要くんと匠くんは、お隣のうちに帰ってくる。

朋美さんがお休みの時の夕食は、朋美さんが腕を振るった。お店にお客さんが少ない時には、たま~に、みんなで招待された。

お姉ちゃんは朋美さんを『ともママ』と呼び、要くんと匠くんはうちのお母さんを、『そのママ』と呼ぶようになった。

要くん、匠くん、お姉ちゃん、三人はいつも一緒に遊んでいた。

要くんと匠くんは、優しくてカッコいいし、お姉ちゃんは性格は『女王様』でも、見た目は愛らしいお姫様だった。

三人でいると、とにかく目立つのだ。

『朝栗三兄妹』──

周りから、そんな風に呼ばれるようになっていた。

そして……要くん 八才、匠くん 七才、お姉ちゃん 六才になる年に、私が、生まれた。

年が離れた私の事を、みんな自分の妹のように可愛がってくれた。

その中でも、匠くんが一番優しかった。私が、お母さんのお腹の中にいる時から、ず~っと……

「お~い! 早く出ておいで!」

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