呼吸(いき)するように愛してる
全然会えなくて…
その当時の私は、まだ幼くて、匠くんへの届かない想いを引きずり、落ち込み続ける事はできなかった。

ともママに『彼女』の事を聞いてから、二~三日は落ち込んで、匠くんの事をなんとなく避けていたけど。

元々、毎日のように会えていた訳でもなかったから、だんだん、日常生活に気をとられるようになり……

いつしか苦しい想いは、頭の隅っこに追いやられていた。

久々に匠くんに会えたなら嬉しくって、匠くんにまとわりつく。

匠くんも、変わらず優しい。私のお話を、優しく微笑みながら聞いてくれる。がんばった時は、頭を撫でてくれる。

このまま、美里さんの事なんか、なかった事になるんじゃないかな……?

そんな自分勝手な事を考えていると、きちんと、美里さんの存在を突きつけられる。

匠くん家に行けば、匠くんのよりも小さめの運動靴が、玄関にあったり。匠くんと美里さんが、自転車を引きながら、一緒に帰ってきたり。

私が、美里さんの存在を忘れてしまわないように、神様が、私に見せつけてくるんだ……

いくら私がお惚けでも、本当に忘れてしまうはず、ないじゃない!“忘れたフリ”もダメなの!?神様の意地悪!!

そんな被害妄想的な事を、よく思っていた。

匠くんへの想いは、上がったり下がったりを繰り返しながら、時が流れていった──


私が小学三年生、匠くんは高校一年生になった。

県内でもトップクラスの進学校に入学した。要お兄ちゃんも、同じ高校だ。

「家から、一番近い高校だから?」

その高校を選んだ理由を、二人とも口を揃えてそう言った。

……要お兄ちゃんも匠くんも、お勉強、得意だもんね。

確かにその高校が、家から一番近いけど、そう思ってそこに行けちゃうところがすごい!

< 62 / 279 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop