愛しい人
『なんだよ』
電話の向こう側はやけに騒がしかった。大勢の話し声が聞こえる。甘えた声で晴紀を呼ぶ声がした。
(何してるんだよ……)
純正には晴紀が今、何をしているのか想像がついてしまった。怒りを抑え、用件を伝える。
「晴紀! すぐ病院へ来い!!」
『無理だよ、俺今飲み会中なんだから。急患?なら対応しておいてくれる?』
「そうじゃない。茉莉花が……目を醒ました」
突然、ブツリと電話が切られた。
純正は真っ黒になったスマホの画面を見つめる。
これはどういう意味だろう。
「……来る、ってことでいいんだよな」
もしそうでなかったら、晴紀の人間性を疑う。
いや、あいつは元からそんな奴だったじゃないか。だがこんな時くらい、人としての誠意を示してくれよ。
純正は病室へ戻り、ベッドサイドの椅子に腰を下ろした。
茉莉花は静かな寝息を立てている。
「人の気も知らないで、のんきなもんだな」
純正は彼女の鼻を軽く摘まんだ。すると迷惑そうに顔をしかめた。
これは今までとは明らかに違う反応に思わず笑みがこぼれる。
これは茉莉花の意識が戻った証拠でもある。
ようやく暗く長いトンネルを抜けることができたといえるだろう。