愛しい人
「まあ、ワインはよく飲むかな。でもとっておきのワインを開けるのはこんな時だけだよ?」
「こんな時って?」
「特別な人と飲む時。だって、」
樹に見つめられ、花名の胸の鼓動は高鳴った。
「小石川さんは僕の大事なアシスタントだからね」
にこりと微笑まれ、気まずさに視線を逸らした。
「そ、そうですよね」
告白されるかもしれないと一瞬でも考えた自分が恥ずかしい。
純正という存在がありながら樹にまで好いてもらいたいだなんてどうかしている。
「部下としてとても大事にしていただいてありがとうございます。いつも大変な時に助けてもらって感謝してもしきれません」
思い返せばいつもそうだった。
樹は気付かないくらい自然に救いの手を差し伸べてくれる。
樹を好きになれば幸せだったのかもしれないと考えてしまいそうになる。
そっと彼を見ると目が合った。