愛しい人

学会が終わって数日後、二人が付き合いだしたという噂が院内を駆け巡った。

茉莉花から告白して晴紀が承諾した。なんでも結婚前提での交際らしい。このまま二人がうまくいけば、茉莉花は次期院長夫人だ。そんな話をそこかしこで耳にするようになった。

晴紀は上機嫌だった。茉莉花のことも思いのほか大事にしているようで、院内に彼女専用の部屋をあてがってやっていた。

自分なんかと付き合うよりも案外幸せになれるのかもしれない。そう考えると、純正はほんの少しだけ許された気持ちになれた。

 それから数か月は平穏な日々が続いていた。

飽きっぽい性格の晴生が茉莉花との付き合いを続けられるのかどうかが心配だったけれど、それは純正の取り越し苦労だったようだ。二人は同棲を始めた。

もしかしたら本当にこのままゴールインするのではないかと誰もが思いはじめた矢先、事件は起こった。

外科当直をしていた純正のもとに一本の電話が入ったのは、深夜の十二時を少し過ぎた時だった。

相手はERの医師で、緊急手術の必要がありそうな交通外傷の患者が救急搬送されてくるという。

丁度手が空いていた純正はそのままERへと走った。いつもなら正式な依頼の電話があるまでは待機していることがほとんどだったが、なぜか胸騒ぎがしたのだ。

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