愛しい人
ERの扉を開けると、ちょうど救急車が到着したところだった。大勢のスタッフに囲まれて、病院のストレッチャーへと移し替えられた顔面蒼白の女性の顔を見て、純正はわが目を疑った。
『茉莉花!』
一目散に駆け寄ってその顔を確かめる。間違いない、彼女だ。そう確信した瞬間、心臓がバクバクと音を立て始める。
『お知り合いですか?』
救急隊員にそう尋ねられて、純正は大きくうなずいた。
『所持品が携帯電話だけで、身分証も何も携帯していなかったんです。先生がご存じでよかった』
『何があったんですか?』
『信号のない横断歩道を横断中に、大型トラックと接触したようです。この大雨の中、傘もささずに歩いていたみたいで、衝突する寸前まで気づかなかったとドライバーが話していました』
純正と救急隊員が話をしている間に、ERのスタッフたちは手際よく採血や点滴の処置を済ませていく。
『結城先生、この女性瀬能先生なんですね。顔がむくんでいてわからないけど……これからすぐにCTを撮りに行きます。エコーで見た感じだと、やっぱりオペが必要そうです』
ERの医師は口早にそう説明し、ストレッチャーを引いて放射線科へ向かって歩き出す。
『僕も行きます』
純正はその後を追った。写し出される画像を見て、オペ室へと電話する。待機のスタッフはもうすでに集まっていた。後は麻酔科医の到着を待つだけだという。
『このままオペ室へ運んでください。あと、輸血の準備を……』
オペ室へと向かいながら、純正は晴紀に電話をかけた。しかし、いくら電話を鳴らしても彼は電話に出たくれない。仕方なく、別の外科医を呼び出した。そして、茉莉花の手術が始まった。
術中何度も心臓が止まるような、危険な状態だった。けれど、どうにか一命をとりとめることができた。人工呼吸器に繋いだままの茉莉花をICUに収容し、そのまま朝を迎えた。
長い、長い夜だった。