愛しい人
そしてその翌朝、病棟での回診を済ませると花名の働くフラワーショップへと出向いた。

けれど、そこに花名の姿はなかった。

「……休みだったのか」

 本当は一刻も早く話をしたかったのだけれど、居ないのなら仕方がない。ならば、夕方自宅で会ったときに話そう。そう純正は思った。
しかし、仕事を早めに切り上げて帰宅してみると、花名の姿はなかった。

部屋はきれいに掃除され、風呂は湯張りのタイマーがセットしてある。冷蔵庫にはひとりでは食べ切れないほどの料理が入っていた。

 仕事はきちんと終わっているし、純正が帰宅するまで待つ契約でもない。けれど、花名はいつも主の帰宅を待ってたではないか。

「避けられてるんだろうな。当然か……」

 彼女のあの行動を否定して、追い返した。顔を合わせるも気まずいと思っているに違いない。

「それならなおさら俺の方から出向いて彼女と話をしないといけないな。また明日、店にいってみるか」

 純正は翌日、仕事の合間を縫って花屋へ出向いた。だがそこには花名の姿はない。

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