妄想オフィス・ラブ ~キスから始まるエトセトラ~
がばっと抱き締められていた腕をほどかれ、手首を捕まれる。
急に無くなった温もりが寂しくて、高宮を見上げて、首を傾ける。

「どうしたの?」

「……っ。帰るぞ」

手首を掴んだままスタスタと出口へ向かう。

「へっ?た、高宮?」

「ごめん……もう無理」

「は?何が?」

あっ。ちょっと待って!
捕まれていた手首を離して手を広げる。

「ねぇ。こっちがいい」

手を繋ごう?とにっこり笑う

「……っ」

「ふふっ。恋人繋ぎだね」

「……っ」

「あはは。嬉しくて手に汗かいちゃう」

「……っ」

「べたべたしたら、ごめんね?」

「……っっっ。あーーーーーもう!」

繋いだ手を引き寄せられ、再び抱き締められる。

「だから、もう無理だって!可愛すぎだから」

「な…なに?」

「ごめん、もう帰せないから。煽るお前が悪い。行くよ、我慢できない」

「へ?な、な、なに言って…煽ってないじゃん!」

ボンっと顔が赤くなるのが分かる。

「あーーーもうその顔堪んない。家まで持たないかも」

「いやいやいやいや。意味が分からない」

首がとれるんじゃないかと思うくらい左右に首を振る。

「あっ。もういいかここで。散々キスしたしな。こんな時間だからもう誰もいないだろうし」

名案が浮かんだかのようにオフィスへ踵を返そうとする。
恋人繋ぎの手を引っ張り懇願する。

「いやっ本と無理だから。お願い駄目だって、帰ろ?ねっ?」

「はぁーーその困った顔も堪んない。少しだけいい?我慢できない」


ぐぐっと顔を近づけて来た高宮の唇に空いている手で押し返す。


「なんで?」

ちょっと不機嫌そうに眉を寄せて睨んでこられても、こっちがなんで?だよっっ!

「待て待て待て待て。ねっ?落ち着こう?終電行っちゃうよ?」

「しゃーねーな。よし、タクシー拾うぞ。帰るぞ麻美」

ひゃっ。な、名前…!!
繋がれた手を引っ張られながら、やっと会社のエントランスを出る。
初めて呼ばれた名前にドキドキしながらされるがままにタクシーに押し込まれた。

「覚悟しとけよ」

耳に寄せてボソリと呟かれたその台詞に又顔が赤くなるのが分かった。







~Fin~


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