妄想オフィス・ラブ ~キスから始まるエトセトラ~

突然出来た空間に、ビックリするも息苦しさから解放されて安堵のため息をついた。

はっ!
いかん安心している場合じゃない。
とにかく謝らねば。

そう思って男性の顔を見上げたら、プシューっとドアが開いた。
次の駅に着いたようだ。
いつもならここで降りる人の波に再び飲まれ、出口の方まで流されてしまうが、なぜか今日は自分を避けて流れができているようで、全く流されなかった。

どうしたことかとキョロキョロしていると、上から声がした。

「後2駅ですから、動かないで下さい」

聞きなれたようなその声に、再び顔をあげる。

「影山くん!」

左手で吊り革をつかみ、鞄を持った左手で私を囲うように腰に手を回してくれていたようだ。

「ごめん。ぶつかったの影山くんだったんだね。重かったでしょ?本とにごめんね。そして今もありがとう。助かっちゃった。申し訳ないけど、後2駅お願いしてもいい?コーヒー奢る」

「……別にいいですよ」

ボソリと一言呟き、そのまま黙ってしまった。

影山君は、入社二年目で彼は私が初めて指導係を任された3つ年下の後輩だ。入社当時から口数は少なく、人当たりも良いとは言えず、無愛想で、どちらかというと取っ付きにくい部類に入っていたが、仕事ぶりは真面目だし、教えたことはきちんと吸収し、ほう、れん、そう、などの社会人の基本となることは身に付いていた為、彼の指導係として特に大変なこともなかったし、むしろ初めてが彼で私も嬉しかった。

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