イジワル副社長に拾われました。
後悔? そんなのいつだってしてるわよ。

いつもいつも、貧乏くじを引いて、こんなはずじゃなかったって後悔して。

でも、あきらめずに戦う勇気が、私にはないから。

だから、いつも逃げちゃうんだ。

「私だって、変わりたいよ……」

小さくつぶやいた言葉は、誰にも拾われずに暗闇の中へと消えていった。






ピンポーン。

玄関で固まっていた私の意識を戻したのは、突然鳴らされたインターホンだった。

こんな時間に誰?

「桐原、帰ってるか?」

「し、白井さん?」

なんで家がわかったんだろう?

って、そうか。私、白井さんに家まで送ってもらおうとして、住所をナビに登録したんだった。

エントランスの郵便受けには名前出してるし、それを見れば私の部屋番号もわかるよね。

「帰ってるなら、返事しろ」

「は、はいっ!」

強い口調に思わず背筋を正して返事をすると、ドアの向こうで白井さんが小さく息を吐く音が聞こえた。

この状況は、上がってもらったほうがいいのかな?

多分、突然逃げ出した私を心配して、追いかけてくれてたんだろうし。

ああっ! でも、部屋干ししている洗濯物とかそのままだあ。

よく見たら、テーブルの上もめちゃくちゃだよ。

ダメだ、こんな部屋に上がってもらうことなんてできない……。

とりあえず、ドアを開けて白井さんの顔を見て話をしよう。

そう決意してドアノブに手を掛けた瞬間、白井さんが私の名前を呼んだ。

「桐原」

「はい」

「……さっきは言い過ぎた。悪かったな」

「い、いえ……」

「今日はゆっくり休め、じゃあな」

そう言って、部屋から遠ざかっていく足音。

もう、一体なんなの?

厳しいことを言ったと思ったら、家に帰ってきてるか確認だけして帰るだなんて。

私だけが、白井さんの一挙一動にドキドキしてる。

白井さんの考えていることがわからなくて、私はしばらく玄関に座り込んでいた。


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