「君」がいるから【Ansyalシリーズ ファンside】 


「その情報は間違いです。
 Ansyalに、Takaは一人しかいません。
 
 正確には……、Takaの想いを受け継いだ、
 Ansyalに絶対の存在。Takaの半身はいます。
 
 メジャーデビュー1周年記念となった聖夜。
 
 俺たちと一緒にバンドを作ったTakaは会場に来る途中に交通事故にあい、
 その日から入院生活を余儀なくされました。
 
 そんな俺たち、メンバーを支えてくれたのはTakaの弟。
 もう一人のTakaの存在です。
 
 Takaが目覚めた時に帰れる場所があるようにと、
 Takaの想いを受け継いだTakaの半身は この夏のツアーまで、
 Takaの意思と共に走り続けてくれました。
 
 AnsyalはTakaの想いを受け継ぐ弟に支えられて、
 今日まで夢を見続けることが出来ました。
 
 明日のお通夜・27日のTakaの告別式を最後にAnsyalは活動休止に入ります。
 
 俺たちに、これからの未来を考える時間をください。
 そして……最後に……。
 
 Takaを思い続けるTakaの大切なファンの皆さんに俺たちからのお願いです。
 
 この事で、ファン同士が言い争いを行わないように気を付けてください。
 
 そして……Takaの後を追うなどのTakaを悲しめる行為を決してしないでください。
 俺たちは今日まで2つの心のTakaと最高の夢を見てきました』


それだけ伝え終えるとAnsyalのメンバーは
一礼をして画面から消えてしまう。


すぐに【そのままでお待ちください】っとコメントが、
画面に現れてまた天の羽音が流れる。


そして最後、真っ暗な画面に真っ白い羽が降り注いで、
文字が現れた。



12月27日 AM9時
Ansyal Taka告別式【音楽葬】

会場:神前セレモニーホール
献花:8時半スタート





その文字が暫く画面に留まって、やがて薄れて行くと
先ほどまで記者会見を映し出していた画面は【本日の放送は終了しました】との
コメントへと変化した。



27日……今日が25日だから……27日は明後日。


まだ正直、実感と言えるほどTakaの死を受け止められたわけではないけど、
その後も、ファンクラブのトップページでのお知らせ画面を見つめると
ただ、その行事だけが私の中に留まり続けた。




その日……何時の間にか眠りについてしまった見たいだった。


次に気がついたのは25日のお昼を過ぎた頃だった。
目が覚めた私がまず戸惑ったのは、腕に突き刺さってる点滴。


えっ?ここ……周囲を見渡しても、
この場所は昨日からお邪魔してる楓我さんのベットだと言うことがわかった。



ふいにドアが開いて、氷枕を手にした楓我さんが姿を見せた。



「ごめん。起こしたかな?
 氷枕、交換しようか」


そう言うと、手慣れた風に私の頭を持ち上げて氷枕を入れ替える。


「……有難う……。
 あの……これっ」

点滴を指さして問いかけると、
楓我さんはすぐに言葉を続けた。


「あぁ、直弥。
 昨日あの後も、熱があんまり下がらなかったら
 当直中の直弥に電話したんだ。

 んで帰って来る時に、一式薬持って来てくれた。

 ちなみに、今は直弥はベッドで夢の中だよ。
 点滴終わったら起こせってさ。

 明日のお通夜も、明後日の告別式も熱が下がらなくても行くんだよね。
 そしたら、今はちゃんと体を休める方が先決だよ」


そんな楓我さんの言葉を聞きながら、私はまた眠りの中へと誘われてしまった。

次に気がついたのは夜の20時頃。
少し軽くなったようにも感じる体を起こして、ベッドから起き上がる。

腕に刺さっていた点滴も何時の間にか抜かれてた。


ベッドからゆっくりと立ち上がって、
リビングの方へと向かうと楓我さんがすぐに気がついて私を部屋の中へと迎えてくれた。

部屋には須藤先生が静かに食事をしていた。




「今、晩御飯食べてたんだ。
 里桜奈ちゃんには、リゾット作ってるから今準備するよ」


そう言って私をテーブルへと着席させると、
楓我さんは台所に私の晩御飯を取りに向かった。


「少し落ち着いたか……」


食事をしている手をとめて、ただ無言で私の方を見つめた須藤先生が短く言葉を発した。



「えっと……有難うございます」

「気にするな。
 後で薬を楓我に持っていかせる」


須藤先生はそう言うと、再び食事をすすめて食べ終わったと同時に
立ち上がって食器を台所へと運んだ。

入れ替わって、リゾットを運んできた楓我さんは私の前へと置く。


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