「君」がいるから【Ansyalシリーズ ファンside】 

スーっと遠ざかって行く祐未に向かって、【祐未っ】って大きく叫んだところで
私は飛び起きた。


心臓がバクバクいって、まだ落ち着きそうにない。
布団の中で必死に呼吸を整えて、再び掛布団を引っ張りながら布団の中に横になる。



だけどその後は、どれだけ寝ようと思っても眠ることなんて出来なくて
もやもやとした胸騒ぎだけが私を包み込む。


30分くらい布団の中で目を閉じて眠ろうとするものの、
眠れそうになくてベッドから這い出して、冬休みの宿題をデスクに向かいながら片付けて朝を迎える。

そのまま流されるように、年末年始の準備を母に指示されるままに機械的にこなし続ける時間。
そんな時間を打ち破ったのは、お昼を少し回った頃。



私の携帯がバイブで震えた。
着信相手は紗雪。



「お母さん、紗雪からの電話だからそこで話してくるね」

「早くしなさいよ。里桜奈」


お母さんに断って、隅っこに移動すると着信ボタンを押す。



「もしもし」

「里桜奈、今から伝えること覚悟して聞いて。
 今ね、祐未が亡くなった……。

 祐未、自宅の部屋で首つってるのを、
 祐未のおばさんが今朝見つけたの。

 祐未の家と私の家、近いでしょ。
 祐未の家に救急車が来たから、慌てて飛び出していったらそんなことになってた。

 でも……今、死んじゃった。

 あんなことだったら、何があっても私が祐未と一緒に居なきゃいけなかったのに……」



そう言いながら、電話の向こうで紗雪は自分を責めるように泣き崩れる。



「……紗雪……」



紗雪……でもそれを言ったら私もだよ。
私、昨日……祐未と電話した。


祐未……大丈夫だっていったんだよ。
お母さんが呼んでるからって、そうやって電話を切ったの。


でも……もっと祐未のことを知っておくべきだった。
その言葉をそのまま、信じちゃダメだったんだ。


私がもっと……祐未を支えることが出来てたら、
紗雪にこんなに悲しい思いをさせなくてもすんだかもしれない。



そんな気持ちが私の中を大きく占めて行く。




電話の向こう紗雪は少しずつ泣き崩れていたのを落ち着かせると、
大切な伝言を続けた。



「里桜奈、祐未のお通夜と告別式年内にするって……。

 斎場が30日まで開いてるみたいで、29日の18時がお通夜。
 30日の9時から告別式になったから」

「……わかった……」

「じゃあ、里桜奈後でね。
 祐未に二人で説教しなきゃ」




そう言って紗雪の電話はプツリと途切れた。
暫くの間、思考が働かなくて呆然とその場で立ち尽くす。




「里桜奈、何時まで電話してるの?」



長電話をやめさせるためか、近づいてきたお母さんの声に現実感が戻ってくる。



「里桜奈、何泣いてるの?」

えっ?
お母さんの言葉に慌てて、自分の手を瞳の方に触れさせると涙が流れていたことにもようやく気がついた。



「どうしたの?
 何があったの?里桜奈?
 泣いてちゃわかんないでしょ?」



そう言って責めるように私に質問してくるお母さんに向かって、
今度は祐未が亡くなった訃報を告げた。

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