どうしてほしいの、この僕に
 それになんとなく理由は想像できる。
 私だって彼の職業について、ある程度理解はしているつもりだ。
 たぶん明日になれば、いやもしかしたら今夜にも、優輝がドラマ撮影中に大けがをしたとニュースになるはず。
 そうなると病院に取材陣が押しかける。ゴシップ記事を狙うなら本人がいる場所に張りつくのが一番いいわけで、そんなところにのこのこ私が出向けば、自ら罠に飛び込むようなものだ。
 だから優輝が私に「来るな」というのはもっともな要求である。
 私だってそんなことはわかっている。わかってはいるんだけどね。
 でも——ただ「来るな」とだけ言われて「はい、わかりました」なんて私が素直に聞くと思ったのだろうか。
 まさか優輝が退院するまで、私が何もなかったような顔をしていられると本気で思ったのだろうか。私をかばって大けがをした人がいるというのに?
 見くびってもらっては困る。
 このまま自分だけのうのうと通常生活を送ってやろう、なんて思うわけないでしょうが!
 俄然やる気がわいてきた。
「絶対に来るな」というのは、つまり「来れるものなら来てみやがれ」ということだ。
 よし、その挑発に乗ってやろうじゃないか。
 脱衣所で服を脱ぎ捨てる。実はまだ体のあちこちが痛いのだけど、それすら些細なことに感じられた。もはや私の頭の中は、どんな変装をするか、という命題でいっぱいになっている。
 目立ちすぎてもいけないよね。病院内で目立たない格好といえば、やはりナース?
 いやいや、もし制服が手に入ったとしても、関係者にはすぐに部外者だとバレるか。
 じゃあ身内を装うとして……優輝の身内って?
 だめだ。ヤツは謎が多すぎる。下手な嘘は身を滅ぼしかねない。やめておこう。
 他には……事務所の関係者とか。あー、これ案外いけるかも!
 しかし事務所の関係者っぽい変装というのは、そもそも変装なのだろうか。馬面や大仏さまを頭にすっぽりかぶるようなわかりやすい変装と比べると、意外に難易度が高いかもしれない。
 バスタブに体を沈める。関節がギシギシ音を立てたような気がするけど、骨折の激痛に比べればこんなもの大したことはない。
 そうだ。明日事務所に行って装備を少々拝借しよう。
 おとなしく待っていろ、守岡優輝!
 どうせ動けないだろうけどさ。
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