どうしてほしいの、この僕に
 そして同時に俺は彼女の背中に打ちのめされていた。
 母を亡くした経験から、少しは彼女の気持ちが理解できると思いあがっていた自分が恥ずかしくて仕方なかった。
 俺にはまだ父親がいる。しかし彼女にはもう親と呼べる人はいないのだ。
 ゼロとイチが同じであるはずがない。
 まだ親の庇護下で生活するのが当たり前の年齢なのに、未莉には帰る家がない。それはどんなに寂しく心細いことだろうか。
 彼女の髪が風になびく。土埃が舞い上がるが、未莉は身じろぎもせず、じっと前方を見つめていた。
 社屋と倉庫があった場所は整地され、火事の痕跡はもはやどこにも見当たらない。
 ここにあったはずのもの、すべてがなくなってしまった。
 未莉が見ている景色を、俺の目にも焼きつける。
 そして俺は静かに自転車を方向転換させた。彼女が俺に気がついていないことを確かめ、ペダルを踏み込む。
 最後に見たこわばった表情の横顔が俺の胸を締めつけた。

 ――このままではいけない。

 そうは思うものの、高校生という身分の俺が彼女のためにしてやれることなどひとつもない。
 帰り道は上り坂が続いて苦しかった。向かい風で息も苦しい。だが未莉の境遇に比べれば、この程度の苦しみなどたいしたことではない。

 ――早く大人になりたい。

 と、唐突に思った。
 そうだ、大人になれば、俺は自由だ。自由になれば、俺が彼女の光になることだってできるんじゃないか。
 こんな身の程知らずの夢想をすること自体、俺がまだ子どもである証拠かもしれない。

 ――でも悪くない考えだ。

 自転車をこぎながらひそかにほくそ笑む。
 欲するだけではなくて、与えられる存在になりたい。いや、ならなければいけない。

 支えて、甘やかして、抱きしめて……。

 いつか俺のすべてで伝えたい。

 君はひとりじゃない、と。

 そして、君は俺の世界を救った希望の光なんだ、と。



『どうしてほしいの、この僕に』番外編 ~END~
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