どうしてほしいの、この僕に
 そう口にした途端、両頬をむにゅっとつかまれた。優輝は私をまっすぐに見つめる。
「今、ちょっと笑いそうになっただろ?」
「ほーでひょーは?」
「何言っているのか、わからん」
 だからこの手を離してよ、と内心で叫びながら、優輝の腕をつかんで大きく左右に開いた。優輝につかまれていた頬がひりひりと痛む。それを手のひらで撫でていると、すぐ隣で優輝がクックッと腹を抱えて笑いだした。
 なぜ笑う。私は全然おもしろくないし。
「少しも笑いそうにはなりませんでしたが」
「ふーん。ここまで強情だと、無理やりにでも笑わせてみたくなるな」
 ああ、なるほど。つまり笑わない私に興味があるということか。それって結局、会社の男どもと同じだ。
「そういう興味なら十分足りていますのでけっこうです」
「それ、どういう意味?」
 急に優輝がムッとした。
「会社で私に寄ってくる男性がみんな興味本位だ、ということですよ」
 言いながら、腹が立つのは私のほうだ、とつくづく思う。私だって笑えないことが苦しくて仕方ないのだ。なのに簡単に『笑わせてみたくなる』とか言わないでほしい。
「へぇ。寄ってくる男がいるんだ」
 優輝の形のよい指が、肩にかかる私の髪をすくいあげた。しばらくするとその髪は、はらはらと優輝の指からこぼれ落ち、私の肩へ戻ってくる。
 触れられているのは髪だけなのに、ドキドキと心臓がうるさく鳴る。
「いますよ。迷惑するほど、ね」
「ふーん。それはすごい」
 優輝が少し首を傾げてにっこりと微笑んだ。整った顔立ちが妖しく歪む瞬間を目の当たりにし、息が止まる。わざとらしいのに、私にはまぶしいほどのきれいな笑顔。直視してはいけないと思っても、視線がそらせない。
 彼の長い指が、今度は私の首筋に触れ、それから髪を軽く引っ張った。
「ある国に生まれてから1度も笑ったことのない姫がいました。自慢の美しい姫が笑わないことを嘆いていた王はある日『笑わない姫を笑わせることができた者と、姫を結婚させる』というお触れを出しました」
 優輝は物語を朗読するように滑らかに語り出した。その低く温かみのある声音に聞きほれそうになるが、内容を理解した私の脳はハッと我に返る。
「なんですか、それ?」
「こんな話があったな」
「童話?」
「さぁね」
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