強引上司がいきなり婚約者!?
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そもそも事の発端は、昨夜のディナーにある。
日曜の夜、近頃ほとんど縁のなかった雰囲気のいい高級フレンチレストランに、恋人の藤也(とうや)が私を誘った。
とは言っても、昨夜フラれたわけだから、今では元恋人に訂正しなきゃだけど。
藤也は2歳年上の税理士で、30代で独立するのが目標だと話していた。
交際期間は半年と少し。
無表情で口数の少ない彼だけど、私たちなりの関係を築けていると思っていたのが間違いだった。
「俺たち、もう別れようか」
ギャルソンがデザートを給仕した直後、タイミングを見計らって彼が唐突に切り出した。
「え……なんで?」
目尻の下がった両目を丸く見開いてキョトンとする私が、夜景を見下ろすことのできる大きな窓に映っている。
私たちが座っているのは、窓辺に沿って置かれた2人掛けのロマンチックな席だ。
ビルの12階にあるこのレストランからは、夜の街に浮かぶ東京タワーだって見える。
前後の席で食事を楽しむ人たちの邪魔になってはいけないから、私は動揺を押し隠して、努めて冷静に聞き返した。