強引上司がいきなり婚約者!?
この関係が本物になることは決してないことを承知で、偽物の恋人でい続けるか。
もしくは、契約の5項目に従って関係を解消するか。
そんなの、答えはわかりきってる。
車は大通りをノロノロと進み、赤信号になって流れが止まった。
信号に引っかかると兎川さんは小まめにギアをニュートラルに入れ替えるんだってこと、今の私は当たり前のように知ってる。
私はシフトレバーを操作する骨張った手から視線を引き剥がして、息を吐き出す勢いでひと息に言った。
「契約を解消してもらえますか。もう、【社内恋愛法度】に従うことはできません」
「なるほど。理由は?」
「す、好きな人ができたんです。契約の第5項の『好きな相手ができたら関係を解消する』って、あれに違反してると思います」
考えたらなにも言えなくなると思ったから、思いつくまま躊躇することなく答えた。
あとは兎川さんが頷けば、すべてが終わる。
「それで?」
……なんて思ったのは甘い考えで、兎川さんはさらに先を促してきた。
「そ、それで? えーっと……」
兎川さんはなにを言わせたいの?
まるで誘導尋問みたい。
私が迷っている間に、信号が切り替わってまたノロノロと車が走り出す。