強引上司がいきなり婚約者!?
「で、俺にあんなキスまでさせておいて、どこのどいつを好きになったんだ?」
私はびっくりして彼の冷たい横顔を見やる。
「それ、言わなきゃダメですか?」
兎川さんはハザードを出してアパートの前に車を横付けし、ギアをパーキングに入れると、私の方へ身体を向けて頷いた。
「そうだな。契約解消を申し出る側として、相手の男の名前くらい言ってくのが普通じゃないか」
兎川さんは鼻の頭にシワを寄せて、容赦なく言い放つ。
頭の中が真っ白になった。
兎川さんは、私が誰を好きになったか、わかってて言ってるの?
それとも本当はなにも気づいてない?
なんと答えていいのかわからなくて言葉に詰まる。
"好きな人"を思い浮かべようとすればするほど、頭の中は兎川さんでいっぱいになって、とっさに別の男の人の名前で誤魔化すこともできなかった。
私は目を丸くして目の前の男の人を見返し、喉の奥で彼の名前を呼んだ。
こんなに惨めな告白ってない。
だけど兎川さんの名前は声にならなくて、代わりに両目から涙が溢れ出た。
兎川さんがギョッとしてあんぐりと口を開ける。
それから私が顔を背けるよりも先に慌ててシートベルトを外すと、身を乗り出して私の頬に両手を当ててそこに伝う涙を拭った。