強引上司がいきなり婚約者!?
「じゃあ志帆、こ、ここは俺の奢りだから。悪かった。ごめんな」
そう言っておかしなくらい真っ青な顔でペコペコと頭を下げ、私と兎川さんの顔色をうかがいながら、まだ少し騒ついている店内を足早に去る。
そこでようやく、主任が私に、私も藤也にワインを浴びせてやらなくていいのかと聞いたのだと分かった。
もしかして兎川さんは、私が後ろにいることを初めから知っていたのかな。
それできっと、藤也の台詞も聞こえてしまっていたんだ。
近寄りがたい上司に、気まずいところ見られちゃったなあ。
まあでも、それはお互い様か。
あの青いワンピースのかっこいい女性がたとえ兎川さんの婚約者でも、そうでなくても、今夜見聞きしたものは秘密にしておこう。
兎川さんの脅しみたいなひと言で、あの冷静沈着な藤也の情けない姿も拝めたわけだし。
藤也につけられた傷はまだヒリヒリと痛むけれど、その割にちょっとせいせいしている自分もいる。
私は今までショックで喉を通らなかったデザートを、口の中に放り込んで美味しくいただいた。
そして藤也の置いていったお札に手を伸ばす。
「て言うかコレ、全然足りてないんですけど」
私の不満たっぷりな呟きに、後ろで兎川さんがプッと吹き出して笑った。