伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「クレア、そうじゃない」

「それに! アンドリュー様は、ライル様のことをとても心配されてました!従兄思いの良い方です」

クレアは真剣に弁明するあまり、ライルの言葉が耳には届いていないようだった。

ここは、後でクレアが落ち着きを取り戻してから、きちんと話をした方が良さそうだと、ライルは判断した。

そらにしても、クレアとアンドリューが自分について話していたとは、驚きだ。

「……心配? アンドリューが?」

「はい。ライル様には幸せになってもらいたい、と」

試すようなことを言われた、とは彼の名誉のためにもクレアは言わないことにした。

「あいつは他には何か言っていた?」

「あ……ええと……いえ……」

急に質問され、クレアは返答に困ってしまった。正直に答えていいものなのか。

すると、ライルが優しく諭すように言った。

「大丈夫だから、言って?」

「……は……はい……」

ライルの緑の瞳は穏やかだ。良かった、自分の知ってるライル様に戻っている、とクレアはホッとした。

「……ライル様のご家族について知ってるか、と聞かれましたが……存じません、と答えました……。アンドリュー様はそれ以上、何も仰いませんでした」

「……そうか……」

ライルはそれだけ言うと、視線を下に落とした。しばらく、視線を下に落として沈黙していたが、やがて顔を上げてクレアに視線を戻した。

「こちらから婚約者の役を頼んでおいて、二ヶ月も一緒にいながら、君のことだけ知っていて、俺のことを教えないのはフェアじゃなかったね。……俺の家族について、話すよ」

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