伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「クレア様、今日のご予定はいかがなさいますか?」
朝食後、紅茶の入ったティーカップをクレアの前に出してから、ジュディが尋ねた。
「そうね……ライル様は、お仕事のことで忙しいかもしれないから、その間は、私はお店の再開に向けて準備するわ」
せっかく修理をしてもらったのに、ライルを待つ間、また店を閉めてしまっていた。今度こそ、気合いを入れて続けなければならない。
午前中、しばらくクレアが机に向かって、作業をしていた時、ローランドが、イーストン子爵の来訪を告げに来た。ライルの無事な姿を確認しに、一家を代表して子爵だけが訪ねてきたようだった。長旅で疲れているだろうからと、全員で押し掛けたりせず、夫人とアンドリューは後日改めて来るという。
「私もご挨拶していいかしら」
ライルの不在中、子爵一家には随分お世話になったし、改めて礼を言いたかった。
「はい。旦那様も、クレア様にご判断をお任せするとのことでございます」
つまり、会ってもいいし、会わなくてもいい。それならば会おう、とクレアは廊下に出た。少し休めたおかげで、体も平気だし、足取りも軽い。ジュディが付いてこようとしたが、大丈夫、と一人で向かった。
応接間の前に立つと、中から子爵の笑い声が響いてきた。ライルが無事に戻って、嬉しいようだ。
続けて子爵の朗らかな声も耳に届いた。
「ところで、ライル、結婚はいつになるのかな?」
「今のところ、まだ決めておりません」
ライルの声も聞こえてくる。
「ほう、なぜだね? 今すぐに一緒になっても何もおかしくないと思うがね」
「気持ちは通じ合っているのですが、まだ彼女から正式に返事をもらっていませんので」
……そうだったわ……! まだちゃんと返事してなかった……!
自分のことを言われていると悟ったクレアは、ドキンと心臓が鳴り響くのを感じた。
「おかしな事を言うね。婚約が成立している時点で、返事も何もないだろう」
「ええ、それはそうなんですが……」
子爵の言うことはもっともだ。だが、実は嘘の婚約から始まった二人の関係だ。ライルはとっさに言葉を濁した。
朝食後、紅茶の入ったティーカップをクレアの前に出してから、ジュディが尋ねた。
「そうね……ライル様は、お仕事のことで忙しいかもしれないから、その間は、私はお店の再開に向けて準備するわ」
せっかく修理をしてもらったのに、ライルを待つ間、また店を閉めてしまっていた。今度こそ、気合いを入れて続けなければならない。
午前中、しばらくクレアが机に向かって、作業をしていた時、ローランドが、イーストン子爵の来訪を告げに来た。ライルの無事な姿を確認しに、一家を代表して子爵だけが訪ねてきたようだった。長旅で疲れているだろうからと、全員で押し掛けたりせず、夫人とアンドリューは後日改めて来るという。
「私もご挨拶していいかしら」
ライルの不在中、子爵一家には随分お世話になったし、改めて礼を言いたかった。
「はい。旦那様も、クレア様にご判断をお任せするとのことでございます」
つまり、会ってもいいし、会わなくてもいい。それならば会おう、とクレアは廊下に出た。少し休めたおかげで、体も平気だし、足取りも軽い。ジュディが付いてこようとしたが、大丈夫、と一人で向かった。
応接間の前に立つと、中から子爵の笑い声が響いてきた。ライルが無事に戻って、嬉しいようだ。
続けて子爵の朗らかな声も耳に届いた。
「ところで、ライル、結婚はいつになるのかな?」
「今のところ、まだ決めておりません」
ライルの声も聞こえてくる。
「ほう、なぜだね? 今すぐに一緒になっても何もおかしくないと思うがね」
「気持ちは通じ合っているのですが、まだ彼女から正式に返事をもらっていませんので」
……そうだったわ……! まだちゃんと返事してなかった……!
自分のことを言われていると悟ったクレアは、ドキンと心臓が鳴り響くのを感じた。
「おかしな事を言うね。婚約が成立している時点で、返事も何もないだろう」
「ええ、それはそうなんですが……」
子爵の言うことはもっともだ。だが、実は嘘の婚約から始まった二人の関係だ。ライルはとっさに言葉を濁した。