伯爵と雇われ花嫁の偽装婚約
「まあ、すごい、お庭があんなに真っ白!」

翌朝、目覚めてカーテンを開けたクレアは、感嘆の声を漏らした。

昨夜、珍しく王都で雪が降った。長い間降り続きはしなかったが、夜の空気に冷やされ、溶けることなく、朝まで残っていたのだ。

「溶けるかしら?」

クレアはジュディに尋ねた。

「そうですね、今朝から太陽が出ていますので、昼間には溶けるかもしれませんね」

「ちょっと出掛けたい所があるんだけど……」

「お店でございますか?」

「いいえ、別の……。でも、すごく大切な場所なの」






昼前、クレア一人を乗せた小さな馬車が、屋敷を出た。

石畳の路上は車輪の跡が幾筋も付き、雪は溶けているが、道の端や歩道には、まだまだ雪は残っている。

やがて、クレアが到着したのは、王都の北西にある、共同墓地だった。

雪の中、訪れる人はいなかったらしく、地面一面に雪が残っている。

雪を踏みしめ、クレアはその中の一角にたどり着くと、しゃがみこんで、墓石に積もった雪を丁寧に手で払った。

「……お母さん……」

そこは、母の眠る場所だった。

「最近、来れなくてごめんね……」

墓石に、話し掛ける。

「今日は報告に来たの。私、春になったら結婚するの。とても素敵な、私には勿体ないくらいの人なのよ。私、絶対に幸せになるわ。だから、見守っていてね」

クレアは微笑みながら、青空を見上げた。

「私の花嫁姿、お母さんにも見せたかったな……」





「じゃあ、天国の母上がすぐに見付けられるように、盛大に行うことにしようか」



< 246 / 248 >

この作品をシェア

pagetop