この想いが届くまで
 仕事に区切りがつきパソコンの電源を落とし時計に目を向けた時だった。外出先から帰ってきた社員数名の賑やかな声が聞こえてきた。

「信じらんない本物だよね?」

「うん、生で初めて見た! やば……まだドキドキいってる」

 興奮気味に自分の横を通り過ぎていく社員に目を向けながら、少しして手洗いから戻った隣の席の先輩に質問をする。

「外で、何かあったんですか?」

「うん。なんかね、社長が一人でメインゲートから入ってわたしたちがいつも使うエレベーターに乗ったらしいよ」

「……えっと。それが何か……特別なことでも?」

「珍しいことなのよ。ほとんど役員専用の入り口かエレベーターしか使わない人だから、今の社長が就任してまだ一年半くらいだけど見かけたことある人ほとんどいないんだから」

「それは……なんでなんでしょうね?」

「なんでだろうね。まぁ……これだけ女だらけの職場だし、イケメンの社長が一人で歩いてるだけで社内が騒がしくなるっていうのはあるよねぇ」

「なんだか芸能人みたいですね」

「ほんとね」

 目を合わせて笑いあうと、未央は荷物をまとめ「お先に失礼します」と言って席を立った。
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