この想いが届くまで
 所用があって上階の経理に立ち寄ってからエレベーターに乗り込んだ。エレベーター内に1人、閉まるのボタンを押した。

 ふと思い出す。さっき、このエレベーターに社長が乗っていたかもしれないんだ。

 そう頭の中を過ぎって振り払うように頭を振る。ふっとため息混じりの笑みを浮かべ1階のロビーボタンを押そうとした時だった。数名の人影が視界に入りそのうちの1人がエレベーターへと乗り込んできた。

 じっと未央を見下ろしながら奥へと進み振り返って壁に背を当てる。

 扉の向こうで数名の社員が頭を下げたと同時に扉が閉まった。

「いまから帰宅?」

「……はい。経理に用事があって、寄って……」

「そうか、同じだな」

 ドキドキとうるさく鳴る心臓のせいで息が苦しい。未央は手に汗を握りごくりと息を飲み込んだ。
 恐る恐る振り返ると、じっと未央を見据える西崎と目が合った。

「ついさっきここへ来る前、ちょうど君のことを思い出したんだ。……だから、今君に会えて驚いてるよ」
「……驚いているようには……見えませんが……」

 動揺に震える未央と違って西崎は淡々とした様子で1歩、2歩と近づいて、目前で足を止めると腕を伸ばしてきた。未央が反射的に目を閉じるとその手は未央を通り過ぎ後ろのボタンを押す。

「でも、会社(ここ)へ来たらもしかしたら会えるのかも、と正直少し思ったよ」

 至近距離で目があって息をするのも忘れて、必死にその場に立つ。油断をすると力が抜けて座り込んでしまいそうだった。

「少し、話さないか」

 エレベーターは一度も止まることなく上昇し、着いた先は一度も足を踏み入れたこともない最上階、社長室のあるフロアだった。
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