この想いが届くまで
 西崎が社長室にて報告書類に目を通していると百瀬がやってきて机の上に厚みのある不揃いな書類がそっと置かれる。
「……何?」
「最近ご実家に帰られてますか?」
「行く時間も理由もない。使用人以外誰もいないし」
 この短い会話だけで察した西崎は、百瀬が置いた書類を腕で隅へと追いやった。
「あたなはここの社長であるだけでなく、名家のご長男ですからね。たくさんの縁談が」
「長男だとか跡取りだとか古い。時代に合わない。両親なんかまったく幸せそうじゃなかったしな。二人とも真面目だから一緒にはいたけど」
「えぇ。あなたにはせめてご自分が望む方と一緒になって欲しいと思っていますよ私は」
「ふーん? 一か月もその望む相手に会えないようなスケジュールを組むのはどこの誰なんだ?」
「こちらは通常通りだと思いますよ」
 そうか、特に忙しいのは未央か。と心の中で納得する。
「お相手と将来についての話はなさるのですか?」
「しないよ。忙しそうだけど楽しそうに見える、仕事が。今はまだいい」
「そうですか。確かに……ご結婚となるとここを続けるわけにはいけませんもんね」
「……で、要件は? この話だけをしにきたんじゃないだろ?」
 隅に追いやった書類に目を向けながら問いかけると百瀬は思い出したように頷いた。
「あぁ、そうでした。本日夜の予定はキャンセルになりました。今日はもうキリのいいところでお帰りください。あとは私は引き受けます」
「そうか」
「あともう一つ。星名様から会社の方へ連絡が入って一度来社してご相談したいことがあるそうです。最近ご連絡は?」
「一度個人的な誘いをお断りしてからはないな。会社で仕事の話ならかまわない。調整してくれ」
「承知しました。それでは失礼します」
 百瀬が立ち去り、机の隅に置かれたままになっている書類を横目にため息をつく。
 結婚に関して西崎自身は急ぐ気も必要性も感じていなかった。まだ話題にあげるには早すぎる気がするが未央が望むなら考えてもいい、自身の家庭事情もありこの時はその程度の思いだった。
 今はまず、久々に未央の顔が見たい。西崎はスマホを手に取り未央に電話をかけ、2コールで相手に繋がる。
「予定が変わって時間が出来たんだけど、今から会える?」
 二つ返事で会えると返ってきて、今から迎えに行くと告げ未央の元へと向かった。
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