この想いが届くまで
それから半年後。
田舎にも帰らず見合いもせず、未央は変わらず就職したときからずっと一人で住んでいるワンルームのマンションにいた。この半年間はなかなか会えない友人に会ったり旅行をしたりと自由きままに過ごしていた。失業保険をもらっていたため再就職活動も少しだけ。それも失業保険も受給が終了する時期に近づくにつれ真面目に取り組むようになっていた。
この日は友人が遊びに来るため夕方から部屋を片付けているとスマホのメッセージ受信の音がなった。友人からかと思ったが表示された名前を見て未央の表情が曇る。遠藤からだった。退職後、月一くらいのペースで近況をたずねるメッセージが送られてくる。最初のうちは元気にしていると返事をしていたが、ここ何回かは返事をしていない。
-ピンポーン。インターホンの音がなってスマホを持ったまま玄関へいく。
「やっほ~! きたよー!」
コンビニの袋を提げ、長い髪を一つにまとめ、サンダルにTシャツと短パンといった部屋着姿で未央の部屋を訪れたのは、藤井志津加(ふじい しずか)、未央の大学時代の友人だ。長年未央の自宅から徒歩五分ほどのマンションに一人暮らしをしていて頻繁に会って、互いの家で飲んで泊まる間柄だ。
「ご飯食べた~? いろいろ買ってきたけどピザでもとる?」
「いいね」
志津加はビニール袋から取り出した菓子類や飲み物をテーブルの上に並べていく。うっすらと額に汗を浮かべる志津加を見て未央はエアコンのスイッチを入れた。
「はぁ~あっつ。九月だというのにまだこの暑さ。早く夏終われー」
「仕事は? 休み?」
「有休。たまってるからとれっていわれてさ。急だから予定もなにも入れらんなくて」
「なるほど。それでウチに?」
「だって未央なら大抵つかまるし」
「無職ですから」
笑っていいながら、未央はスマホの出前アプリを手慣れた様子で操作する。
「就活どう? 最近ちゃんとはじめたんでしょ?」
「うん。そこそこかな。まぁ、なかなか条件あうところは決まらないけどさ~」
「条件って?」
「社内恋愛禁止」
「はぁ!?」
「あはは! 冗談よ!」
大口開けて笑う未央を見て志津加の表情も緩む。
「よかった。元気になって」
「えー?」
「前の会社にいた頃とか。自殺するんじゃないかってくらい死んだ顔してたし」
「死なないよ。たかが恋愛で。でもま、職場であんな思いするのはもうたくさん! 振り回されて自分が会社辞めて……ほんと、私バカだったぁ」
前の職場で友人と好きな人を同時に失ったその話を、志津加はすべてリアルタイムで聞いていた。会社の人には絶対できない相談を、できる相手がいただけ未央にとっては救いだった。
「いや~しかし。ほんと心配したんだよ? まさか未央が。ヤケになって行きずりの相手とホテルに行くなんて」
「あれは……自分でも驚いてるよ」
「あれっきりなんだよね?」
「うん。名前も連絡先もなんにも知らない。……ねぇ、ピザでいい?」
宅配ピザの商品画面を見せ適当に注文を済ませる。
「三十分から一時間で届くって」
「ほーい。ねぇ、チャンネルは?」
チャンネルを手渡すと志津加はテレビをつけた。そしてプシュっと気泡がはじける音を出して缶ビールを開けるとあぐらをかいたままの態勢でゴクゴクとおいしそうに喉に通す。
「志津加、オヤジみたいなんだけど」
「いいじゃん、女同士なんだから」
「男の前では違うの?」
「もちろん! まず股は閉じて座るね!」
「ははっ」
座った未央が缶ビールに手をかけた時、部屋のインターホンの音が鳴った。
「あれ~? もうきた?」
「早すぎるでしょ」
未央は立ち上がり玄関まで行きドアスコープから扉の向こうの相手を見ると配達員だったため印鑑を持って扉を開ける。
郵便物を受け取り部屋へ戻ると、まずは志津加の姿が目に入って、次に彼女が目を向けるテレビ番組に目がいった。
田舎にも帰らず見合いもせず、未央は変わらず就職したときからずっと一人で住んでいるワンルームのマンションにいた。この半年間はなかなか会えない友人に会ったり旅行をしたりと自由きままに過ごしていた。失業保険をもらっていたため再就職活動も少しだけ。それも失業保険も受給が終了する時期に近づくにつれ真面目に取り組むようになっていた。
この日は友人が遊びに来るため夕方から部屋を片付けているとスマホのメッセージ受信の音がなった。友人からかと思ったが表示された名前を見て未央の表情が曇る。遠藤からだった。退職後、月一くらいのペースで近況をたずねるメッセージが送られてくる。最初のうちは元気にしていると返事をしていたが、ここ何回かは返事をしていない。
-ピンポーン。インターホンの音がなってスマホを持ったまま玄関へいく。
「やっほ~! きたよー!」
コンビニの袋を提げ、長い髪を一つにまとめ、サンダルにTシャツと短パンといった部屋着姿で未央の部屋を訪れたのは、藤井志津加(ふじい しずか)、未央の大学時代の友人だ。長年未央の自宅から徒歩五分ほどのマンションに一人暮らしをしていて頻繁に会って、互いの家で飲んで泊まる間柄だ。
「ご飯食べた~? いろいろ買ってきたけどピザでもとる?」
「いいね」
志津加はビニール袋から取り出した菓子類や飲み物をテーブルの上に並べていく。うっすらと額に汗を浮かべる志津加を見て未央はエアコンのスイッチを入れた。
「はぁ~あっつ。九月だというのにまだこの暑さ。早く夏終われー」
「仕事は? 休み?」
「有休。たまってるからとれっていわれてさ。急だから予定もなにも入れらんなくて」
「なるほど。それでウチに?」
「だって未央なら大抵つかまるし」
「無職ですから」
笑っていいながら、未央はスマホの出前アプリを手慣れた様子で操作する。
「就活どう? 最近ちゃんとはじめたんでしょ?」
「うん。そこそこかな。まぁ、なかなか条件あうところは決まらないけどさ~」
「条件って?」
「社内恋愛禁止」
「はぁ!?」
「あはは! 冗談よ!」
大口開けて笑う未央を見て志津加の表情も緩む。
「よかった。元気になって」
「えー?」
「前の会社にいた頃とか。自殺するんじゃないかってくらい死んだ顔してたし」
「死なないよ。たかが恋愛で。でもま、職場であんな思いするのはもうたくさん! 振り回されて自分が会社辞めて……ほんと、私バカだったぁ」
前の職場で友人と好きな人を同時に失ったその話を、志津加はすべてリアルタイムで聞いていた。会社の人には絶対できない相談を、できる相手がいただけ未央にとっては救いだった。
「いや~しかし。ほんと心配したんだよ? まさか未央が。ヤケになって行きずりの相手とホテルに行くなんて」
「あれは……自分でも驚いてるよ」
「あれっきりなんだよね?」
「うん。名前も連絡先もなんにも知らない。……ねぇ、ピザでいい?」
宅配ピザの商品画面を見せ適当に注文を済ませる。
「三十分から一時間で届くって」
「ほーい。ねぇ、チャンネルは?」
チャンネルを手渡すと志津加はテレビをつけた。そしてプシュっと気泡がはじける音を出して缶ビールを開けるとあぐらをかいたままの態勢でゴクゴクとおいしそうに喉に通す。
「志津加、オヤジみたいなんだけど」
「いいじゃん、女同士なんだから」
「男の前では違うの?」
「もちろん! まず股は閉じて座るね!」
「ははっ」
座った未央が缶ビールに手をかけた時、部屋のインターホンの音が鳴った。
「あれ~? もうきた?」
「早すぎるでしょ」
未央は立ち上がり玄関まで行きドアスコープから扉の向こうの相手を見ると配達員だったため印鑑を持って扉を開ける。
郵便物を受け取り部屋へ戻ると、まずは志津加の姿が目に入って、次に彼女が目を向けるテレビ番組に目がいった。