同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~
ところが、会社について始業時刻を過ぎても、比留川くんはオフィスに現れなかった。
そういえば、高熱っぽい彼を見捨ててきてしまったんだっけ……。
そのせいで体調が悪化して、お休みしているんだったらどうしよう。
人知れず胸を痛めながら、午前中は通常通り電話応対をメインに業務をこなした。
比留川くんの体調が心配な反面、彼の姿を見ずに済むのは精神的に助かる部分もあって、昼頃にはだいぶ心が元気を取り戻してきた。
しかし、そんな矢先に事件は起きた。
昨夜のお礼にと、八重ちゃんに社食のランチをおごり、ふたりでオフィスに戻る途中のこと。
「あ、先輩。あれ、黒岩……じゃなくて、比留川さん」
「え?」
ドキッとしつつ、彼女の指さしたを方向を見ると、廊下の向こうからこちらに向かって、十人ほどの集団が歩いてくる。
その先頭にいるのが比留川くんで、彼が引き連れているのはリクルートスーツに身を包んだ若者たち。おそらく、就活中の学生だろう。
「あ。そっか、今日って会社説明会の日だっけ。確か、午後から本社の見学って……」
「へえ。でも、そういうのって人事のひとがやるんじゃないんですか?」
「基本そうだと思うけど、来年度はかなり採用人数増やすらしいから、応援頼まれたんじゃないかな」
理由は推測でしかないけど、比留川くんはそっちの仕事をしていたから企画課にはいなかったんだと、とりあえず納得する。
見たところ風邪からは回復したようでホッとするけれど、あまり近くで顔を合わせたくない。