同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~
「……行こう、八重ちゃん」
彼らがあまり近くに来る前にオフィスに戻ってしまおうと、私は踵を返すけれど。
「先輩、あの子だけなんか異様に比留川さんに慣れ慣れしくないですか?」
八重ちゃんに呼び止められ、再び集団の方を振り返る。
きっと大学生から見ても比留川くんはカッコいいし、言い寄る子がいてもおかしくはない。
だとしても私はもう関係ないはずなのに、彼を好きになる女の子がいると思うと、やっぱり嫌だ。
胸の中に複雑な気持ちが渦巻いたまま、その女の子にこわごわ視線を合わせる。
パンツスーツを身にまとった、小柄な体形。高めに結ったポニーテール。小麦色の肌に、大きな瞳。……この子って、まさか。
「沙弓……さん?」
なんで彼女がここに……。
呆然と立ち尽くしている間に集団は近づいてきていて、私の視線に気が付いたらしい沙弓さんと目が合う。
あ……やばい。逃げたい。咄嗟にそう思ったけど、棒のようになった足はうまく動いてくれなくて。
「迅……私、トイレに行きたくなっちゃった。あの女の人に、場所聞いてもいいかな」
「お前な、そういうのは休憩中に済ませておくのがマナー……」
沙弓さんの発言に苦言を呈する比留川くんだけど、“あの女の人”というのが私であることに気が付いて、言葉が途切れる。
一瞬視線があったけれど、私の方からパッとそらしてしまい、気まずさマックス。
廊下の真ん中にいやな沈黙が流れて、沙弓さん以外の就活生たちが不思議そうな顔をしている。