同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~


「どうして……」


寂し気に微笑む彼は、まるで私の気持ちをすべて知っているようだ。


「とりあえず、どこか入らないか? そんなに時間はとらせないから」

「うん……わかった」


ごめんね、比留川くん……少し待たせてしまうけれど、あなたのもとに向かう前に、嵐とのことをきちんとしておきたいの。


私と嵐はたまたま近くに会ったカフェに入り、コーヒーだけを頼んで向かい合う。

BGMは会話を妨げないほどの、静かなジャズピアノ。

天井に向かって立ち上る湯気の向こうで、嵐が静かに話し出した。


「俺の中ではさ……昔の、俺のこと大好きだったみちるのまま、時が止まってて……だから、こないだ一緒に岡山帰ろうって誘った時、即答でいい返事がもらえるとタカをくくってたんだ。でも……みちる、迷っただろ?」


嵐のことが大好きだった私……か。

確かに、付き合っているときは時間さえあれば別の大学に通う彼に会いに、足繫くキャンパスに通って一緒に過ごしていた。

一秒でも長く嵐といられることが、私の幸せだったから。

でも、今嵐とこうして向き合っていて……あの頃のように胸がときめくことは、もうない。

百貨店で再会したときは、彼の誘いに甘えてしまおうかと心が揺らいだけれど、今ならそれが間違いだってわかる。

嵐の言うように、私はもう、あの頃の私じゃないのだ。


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