同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~
びっくりした。ぐ、偶然……だよね。
比留川くんも何か言おうとしているみたいだけど、先に言ってもらった方がいいかな。
いやでも、ここは私から雰囲気を変えたほうが……。
そう決心して口を開いたとき、再び偶然は起こった。
「比留川くん、この後時間ある?」
「難波、この後ってなんか用事……」
私たちは顔を見合わせ、どちらからともなくぷっと吹き出した。
もしかして、同じこと考えてたのかな。
私と、同じこと……。
“あなたのこと、もっと知りたい”――って。
高鳴る胸に軽く手を当て、上目遣いに比留川くんを見る。
彼は目を細めて射抜くように私を見たかと思うと、部屋の中をぐるっと一周見渡した。
そして――。
「……つか、もう、抜ける?」
厚めの唇がかすかに、けれど色っぽく動いて、私を誘う。
その台詞……。本当に、同じ気持ちだと思っていいの?
「……あ、怪しまれない、かな」
嬉しい反面、ふたり一緒に抜け出すなんて、色々ウワサされてしまいそうで心配だ。
不安がる私に対し、比留川くんは飄々とした様子で言い放つ。
「いいんじゃない? いろいろ想像させとけば」
それから片側の口角だけをニッと上げた意地悪な笑顔に、私の胸は打ち抜かれてしまった。
やばい……。
こんな急展開は予想外だけど、久々のときめきで舞い上がってしまいそう。
……なあ、比留川くん。
あんた、格好よすぎじゃけぇ。
私……ほんまに、好きになってしまうで?
さっそく帰り支度を始める比留川くんを眺めつつ、無意識に標準語を忘れた心の声が、そう呟いていた。