同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~
「芝公園まで」
短く彼が告げると、バム!とドアが閉まり、タクシーは夜の街を走り出す。
さっきまでいた居酒屋でも隣に座っていたし、外も一緒に歩いたけれど、同じ車内となるとぐんと密室感が高まって、指先までがちがちに緊張してしまう。
ちら、と隣の彼の様子を窺うと、涼しい顔で車窓を眺めていて、なんだか悔しい。
きっと、都会の人はこんなことでどぎまぎしないんだ。それなら、私だって……。
「比留川くん」
私は勇気を出して、無言で振り向いた彼の肩に、頭をコテンともたれさせた。
甘え慣れている感を出したいのだけど……本当は、拒否されたらどうしようと内心ドキドキだ。
「……眠くなった?」
しかし比留川くんはそのまま肩を貸してくれて、冷静にそう尋ねてきた。
……なぬ。私がやると、ただの眠い奴に見えてしまうのか……。
どぎまぎさせる作戦のはずが、全く効果がないみたい。
「ゴ、ゴメン、平気!」
急にとてつもない照れが襲ってきて、笑ってごまかしながら姿勢を戻す。
すると次の瞬間、大きな手がぐい、と私の側頭部を引き寄せて、私の頭は元の場所……比留川くんのあたたかな肩にくっついた。
「……別にいいよ。着くまで、こうしてて」