同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~
な、な、なにこれ……恥ずかしい……!
運転手さん、今はバックミラーから目をそらしていてください!
激しい羞恥が押し寄せて、顔から火が出そうだ。
にしても、比留川くん、いいにおいがする……。香水、かな。爽やかなシトラス系に、男性的でセクシーな香りが融合していて、うっとりしてしまう。
「――難波。着いたぞ」
はっと顔を上げたときには、いつの間にか目的地の前に到着していた。
どうやら、比留川くんのぬくもりと香りに酔いしれて、眠ってしまったらしい。
タクシーを降りて意識がはっきりとしてきた頃には支払いが済んでいて、私は比留川くんの腕をつかんで謝る。
「タクシー代、ゴメン! 食事は私が出すから……!」
「いいよそんなの。距離短かったし。ほら、早く行こう」
ぽん、と背中をたたかれて、“焼き鳥 河田”と書かれた赤い暖簾をふたりでくぐった。
「いらっしゃい!」
鶏の焼ける芳しい香りが漂う店内に入ると、カウンターの中から元気のいい男性店員の声がした。
小さな店内はカウンターのほかに四か所テーブル席があるだけで、金曜の夜ということもありほぼ満席。
しかし比留川くんは、さっき声を掛けてきた店員の目の前のカウンター席がふたつ空いているのを見つけ、私たちはその席に並んで座った。
「おー、なんだ迅か! 女連れだからわかんなかったわ」
正面から比留川くんの顔を見て、親し気な笑顔を浮かべる男性店員。茶髪で色黒でなんだかチャラいけど、比留川くんの友達なのだろうか。年齢は確かに同じくらいに見えるけど。