同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~
「いえ、比留川くんも一緒に昇進したんです。すごいんですよ? この若さで課長に抜擢されて」
「へぇ~。じゃー今日は二人ともめでたいんだな。わかった、ちょっと待ってて。ビール一杯オゴるわ」
一旦奥の厨房に引っ込んだ玄太さんは、なぜかジョッキを三つ持って現れた。
それを私と比留川くんの前にひとつずつ置き、そして最後のひとつは玄太さん自身が掲げる。
「うし! 今夜はふたりの昇進と、迅の新しい恋に乾杯!」
勝手に宣言して、ぐびぐび喉を鳴らしたのは玄太さんだけ。
私は彼の“新しい恋”というワードが胸に引っかかって、黙り込んでしまう。
新しい……ということは、古い恋もあったわけだよね。
そりゃまぁこの歳になれば恋のひとつやふたつ当たり前だけど、乾杯するほど“新しい恋”が喜ばしいってことは、結構最近まで前の恋を引きずっていたのかな……。
「……玄太。仕事しろ仕事」
ぐるぐる考える私の横で、冷めた様子の比留川くんが告げる。
玄太さんは「あ、俺邪魔か!」とお得意のわざとらしい台詞を呟きながら、他のお客さんのほうへ移動していった。
「……ゴメン。あいつ、うるさくて」
ばつが悪そうに、比留川くんが言う。私は笑顔を取り繕って、彼の方にジョッキを向ける。
「ううん、平気。そうだ、私たちも、乾杯しよ?」
「……だな。じゃあ、改めて」