同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~


どくん、と胸が鈍い音を立てる。

“昨日一緒にいた女”……きっと私のことだ。

私よりずっと若そうな声……なのに、比留川くんのこと、呼び捨てにしてる。

……どうして?


「……沙弓が納得できなくても、関係ないだろ。これから彼女が来るんだ。帰ってくれ」

「いや! お兄ちゃん、私のこと“妹だ”としか言わなかったんでしょ? 私、自分でちゃんと言いたいの! 迅と付き合ってたこと……っ!」


その言葉を耳にするなり急に息苦しくなって、私は扉の前からふらふらと後ずさった。

沙弓さん……金曜の夜、焼き鳥屋さんで出た名前だ。

付き合っていた……って、本当?

玄太さんは“ただの妹だから”――と言っていたし、そのとき比留川くんも特に否定しなかったのに。


しばらくの間廊下の壁に背中を預けて呆然としていると、目の前の扉が静かに開いた。

そこから出てきた比留川くんは驚いて目を見開き、私を見下ろしたままで固まる、

そんな彼の様子を不思議に思ったらしい沙弓さんがひょっこり、比留川くんの後ろから顔を出した。

焼けた肌に大きな瞳が印象的な、可愛い人……。

私はふたりに何か言われるのが怖くて、顔に愛想を貼り付けると先に早口でまくしたてた。


「ご、ごめん……。来るの、早すぎた、かな。お客さん、いるみたいだし、今日は帰るね?」


言うだけ言って、彼の返事を待たずに玄関の方へと向かう。

その背中に、焦ったような比留川君の声が飛んでくる。


「……難波、待ってくれ! ちゃんと、落ち着いて説明したい」


少し迷ったけれど、私にはこの場にいることがもう無理だった。


< 47 / 236 >

この作品をシェア

pagetop