同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~


「……ごめん。私が、落ち着いて聞けそうにないから」


ほんの少し振り返ってそう返すと、私は逃げるように玄関を飛び出した。

マンションを出て、とりあえずただ一直線に走って……息が切れてきた頃、小さな公園を見つけてそこに入った。

遊具はなく、犬の散歩やジョギングをする人がぽつぽつ通りかかる。

私は薄紫の蕾を垂らした藤棚の下にベンチを見つけて腰を下ろし、盛大なため息を吐く。

……逃げてきちゃった。比留川くんは、ちゃんと説明してくれるって言ったのに。


「意気地なしだな……私」


仕事ではどんなクレームからも“逃げたい”だなんて思わないのに、プライベート、特に恋愛のことになるとまるでダメ。

……たぶん、私の方こそ前回の恋を引きずっているんだ。

さらには、沙弓さんが私の思うところの“ザ・湘南美人”だったから、戦う前から敗北感。

あの肌の色……きっと、比留川くんと一緒に波乗りしたりするんだろうな。

それに比べて私は無趣味だし、どっちかというとインドア派のつまらない奴だし……。


「……いけん。でぇれー落ち込んできよる」


東京に住んで、都会の色に染まって。見た目だって、地元にいたころよりはずいぶん垢抜けたはずだ。

だけど、どんなに都会人のふりをしたって、本当の私は超がつくほど田舎者だし……元彼に振られたのも、それが原因で……。


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