同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~
『ちょっと、どういうことなの!? おたくのドリップバッグ、全然カップに引っかからないじゃないの!』
「カップの大きさは確認されましたでしょうか? パッケージの側面にも記載がありますが、直径九センチ以下のカップをご利用に――」
『こんな小さな文字じゃ見えないじゃないのよ! だいたい九センチって何よ中途半端ね!』
あちゃー……今日はまた、なかなか攻撃的なお客様だ。ヘッドセットから聞こえる声のボリュームに、耳がキーンとなる。
ここへ配属されたばかりの頃は、たった一本こういう電話をもらっただけでへこんだものだった。
商品知識も乏しいから、上司に取り次ぐか、曖昧なことしか言えずに後日連絡し直す自分が情けなくて。
でも……お客様相談室での経験を重ね、暇さえあれば商品のことを研究しているうちに、いつしかこの程度のことでは動揺しなくなった。
「申し訳ございません。直径九センチ、というのは、現在流通しているあらゆるコーヒーカップの大きさを当社で独自に調査し、平均をとったもので、多くのお客様にご利用いただけるようにと決定したものなのですが……。
ご不便に感じたお客様がいらっしゃるということで、文字の大きさとともに担当者に報告させていただきます」
申し訳なさをにじませつつ、“今後のため、指摘を次に生かす姿勢”を見せる。
もちろん、嘘を言うわけにはいかないので、実際に担当者にも報告する。
社員たちにはいやな顔をされることも多いけれど、お客様の立場になってみないと見えないことを伝えるのも、私の大切な役割。
過去には心が折れてしまいそうなこともあったけれど、今では胸を張って、この仕事をしている。