同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~
ホッとして、私も空いている席に着く。
そういえば、こちら側の男性のこと紹介されてないけど……。
そう思いながら控えめに男性の横顔を窺うと、視線に気づいたらしい彼が、奥二重の瞳を細めて小さく笑った。
「まさか、俺が誰だかわかってないんじゃないだろうな? ……桃太郎」
モモタロー……ま、まさか、その呼び方、その低い掠れ声は!
「く、久我さん……ですか?」
「ですか? じゃねぇよ。元上司の顔を忘れるとは失礼な奴」
「だ、だって……!」
管理課時代の上司である久我さん。彼のトレードマークといえば、社会人スレスレの無造作(ぼさぼさ?)な髪型と、似合っているから許されるけれど普通はナシであろう無精髭……。
こないだの会議の時はそれがあったのに、今日の彼ときたらまるで別人。
髪は短く切りそろえられ、顎も鼻の下もツルツル……っていうか、久我さんて普通にめちゃくちゃカッコいい人だったのね!
驚愕して彼を凝視する私に、久我さんが言う。
「まあ、社長秘書ともあろうもんが、あれじゃマズいからな」
「久我さん、今、社長秘書なんですか!」
「ああ……ついこないだからな。しかしお前だって、見事な変身ぶりだぞ。一年目の桃太郎っぷりときたらすごかったもんなぁ」
しみじみ昔を懐かしむ彼に、私は急にさあっと血の気が引いていくのを感じた。
そうだ……久我さんは、数少ない私の正体を知る相手なんだった。
その話、社長や八重ちゃんの前でしないでください!
必死の努力で完成させた都会女子の仮面が剥がれてしまう……!