同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~
嵐に連れてこられたのは、百貨店のビルの最上階の十階にある、趣のある天ぷら店。
私たちが入店するなり、さっき催事場にいた従業員同様、嵐に向かってにぺこぺこと頭を下げる店員たち。
「嵐って……もしかしてすごい偉い人なの?」
通された店の一番奥のテーブル席。嵐と向かい合って座るのと同時に聞いてみる。
「まあ……偉い、かもな。ここの階のレストランとさっきの食品売り場は、俺が統括部長だから」
「えっ! すごい……」
嵐は歳がひとつ上。とはいえ、こんなに大きな百貨店の役職者なんて並大抵の努力ではなれるものじゃないだろう。
地元を離れた理由はともかく、嵐もこっちで頑張っていたんだな……。
そんなことをしみじみ感じながら、お冷のグラスを傾けたとき。
「みちる、結婚は?」
唐突な質問が飛んできて、私はげほごほと咳込む。
「なに動揺してんの」
「いや、別に……っていうか、結婚なんてまだまだだし」
「彼氏は?」
「…………いない」
ぼそっと正直に打ち明けた私に、嵐はなぜかほっとしたように息をついて椅子の背もたれに寄りかかった。
……なんなのその反応は。