同期と同居~彼の溺愛中枢が壊れるまで~


「嵐は……付き合ってるんでしょ? あのときの人と。それとももう結婚した?」


彼と付き合っていたのはずいぶん過去のこととはいえ、勇気のいる質問だった。

さすがに嫉妬心はないけれど、あのとき心に負った傷は深くて、まだ完全に癒えていない。

嵐はしばらく黙ってからふっと自嘲気味の笑みをこぼして、信じられないひと言を口にした。


「あの時の彼女にはさ……遊ばれてたんだ、俺。実際東京に来てみたら“マジで来たの”みたいな顔されて、すげぇ迷惑がられて……。よくよく聞いてみたら、なんと人妻だったっていう最悪のオチつき」


ははっと乾いた声で笑う嵐を、私はぽかんと眺めていた。

今まで、自分だけが捨てられたとばかり思っていたけれど……。彼女のために上京までした嵐が、そんなひどい目に遭っていたなんて。


「それ知って、ホントはすぐみちるのもとに帰ろうと思ったよ。でも、そこで初めて、みちるになんて言って東京出てきたか思い出してさ。女に振られたから地元帰って、元カノと元通りになるなんて、ムシが良すぎるだろうって、自分が情けなくなった」

「そう、だったんだ……」


もしもそのとき嵐が帰ってきていたら……私は、彼を受け入れていただろう。

きっと、地元から出ることもなかった。今の会社にも、そこで働く皆にも……比留川くんにも、出会えなかった。

……運命って、不思議だな。


「だから、とりあえずはせっかく得た仕事に打ち込むことにしたんだ。プライベートなんかいらないって勢いで頑張ったら、それに見合う評価ももらえて、少しは偉くなれた」


そう言って嵐が浮かべた自信ありげな、けれど嫌味のない笑みは、今の彼よく似合っていた。


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