ただあの子になりたくて


誰と接するより難易度が高い。

なんといったって、私の本当のお母さんとはまるで違うタイプ。

「そう……? ねぇ、さっきお隣さんからリンゴをおすそ分けしてもらったのよ。アップルパイを作ろうと思うんだけど、椿も一緒に作らない?」

奥様がよく持っていそうなピンクの花柄のエプロンをつけた椿のお母さんは、愛らしく首を傾げる。

私は瞳を大きく開きかけて、誤魔化すようににんまりと笑いを取り繕った。

アップルパイを、作る、なのだ。

作ったこともない。作ってもらったこともない。

私のお母さんは、料理が好きではなくて、よくレトルト食品を鍋で茹でていた人だ。

そんなお洒落な会話に耳が驚いてしまう。

これだからお嬢様は違うんだわと、身に染みて思う。


< 126 / 318 >

この作品をシェア

pagetop