ただあの子になりたくて
そのとき不意に、白いドアから控えめなノック音が響いた。
私はスマホを枕元に投げ出し、咄嗟にベッドの上に正座する。
大慌てでひっくり返った声で返事をすれば、ドアがそっと開かれた。
「椿、なかなか起きてこないから心配になって来たんだけど……大丈夫かしら?」
顔を覗かせたのは、柔和な白い丸顔の品のいい女の人。
肩までの上品な緩いパーマの髪と、優し気に細めた目がよく似合う、椿のお母さん。
「あっ、う、うん、大丈夫。昨夜、よく寝付けなかっただけで」
ありがちな嘘をつきながら、膝に置いた手のひらがべったりと汗ばんでいる。
一週間たった今でも、椿のお母さんと話すのは、学校のみんなと話す以上に緊張する。
私は家での椿を知らないのだ。